嵐の後に


「ハァ……」
千切れたコードをつなぎ合わせながら、レーツェルはため息をついた。
「悪ィな、あんたまで駆り出しちまって」
緩んだネジを締め直しながら、ファルコが珍しく謝った。
「いや、今回のはしゃあないからな、謝らないでええよ」
「…レーツェル、コードの接続が悪いみたいだ」
モニターを覗き込んでいたフォックスが言った。
「あ、今直すわ」
レーツェルはコードの接続部分を確かめた。
「こっちのデータは60%は復元できそう。そっちは?」
「う〜ん、15%が限度だな。向こうのは無理だ。メモリが物理的に破損してる」
ものすごい勢いでキーボードを叩くサムスとフォックスが話す間にも、他のメンバーは壊れた部品を取り替えたり回線を繋いだりする。
「レーツェル! 3番のプラグあるか?」
「あるで!」
作業着のポケットから3番のプラグを取り出し、ファルコンに渡す。
「あーっ、こんな訳の分からへんコンピューターよりフライヤーの整備がしたいわ」
「私もよ。早くパワードスーツの整備がしたいわ」
レーツェルのぼやきに、サムスもため息をついた。



レーツェル達は今、屋敷の地下にあるコンピューター群を修理している。
空調、乱闘ステージ、照明といった日常的なものから広範囲レーダー、転送装置といった非常用のもの、何のためなのか分からないファイルや機能など、あらゆる機能が備わっている。万一壊れるとかなり困るのでコンピューター群のある部屋は立ち入り禁止になっていたのだが――それが壊れたのだ。
とは言っても、決して子供達のせいではない。ついさっき襲撃をかけてきたザコ敵軍団のせいである。
スマブラメンバーにはザコ扱いされている彼らだが、一般人から見れば決して弱くはない。一通りの武術はプログラムに入っているし、片手でコンクリ塀を打ち砕く腕力もある。レーツェル達非戦闘員が真っ先に逃がされたのも、うっかり彼らと鉢合わせしたらまずいからだ。無差別広範囲攻撃を行うスマブラメンバーの方が危険だというのは秘密である。
そんな訳で、人的被害はほぼないものの物的被害が大きい。しかもこのコンピューター、誰も見たことのない型のためどこをどういじればいいのか分からないのだ。
しかしこれがないと生活に支障が出る。仕方なく、機械に詳しい面々が、試行錯誤しながら修理しているのだ。



「サムス、空調システムのテストランを頼む」
「OK。……あら、動かない」
「ファルコ、予備電源をもう1つ繋いでくれ」
「分かった」
「だぁ〜、やめ! こっちがショートしとるんや!」
レーツェルが慌てて止めた。
「直るか?」
「見えんのや、火花がひどくて……」
「ああ、俺がやるよ。変わってくれ」
ファルコンがやって来て、火花を散らす故障箇所に手を伸ばした。
「大丈夫?」
「この手袋は特別製だからな……ん、これが原因か」
引き戻されたファルコンの指の間には、ナイフのような鋭い金属片が挟まれていた。
「配電盤にこれが刺さってた。抜いたら火花が収まったから、そんなにまでは壊れてないと思うぜ」
「ありがとな」
ファルコンが放り投げた金属片を律儀に受け止めて、リンクが紅茶とクッキーを持って入って来た。
「差し入れですよ」
「サンキュー。じゃあ休憩にしようか」
皆は持ち場を離れて、休憩することにした。
「上の方は大体終わったんですけど、そっちはどうですか?」
「全っ然ダメ。今日中には終わらないわね」
「そうですか……俺達が手伝えればいいんですが……」
リンクは申し訳なさそうに言った。
スマブラメンバーの中にはリンクやマルス達のようにコンピューターのない世界の出身者も多く、コンピューターのある世界の出身者でもネスやポケモン達のように機械に詳しくない者もいる。ファルコンやレーツェルも、単に機械いじりが出来るからという理由で参加させられている節がある。
物を壊すのは容易だが、直すのは――作るのは難しい。
「気にすんなって。お前らはよくやってるよ」
「そうそう。夕食は精のつくようなもん作ってくれよ」
「ええ……何か、励ましに来て励まされるってのも複雑ですけど」
隼コンビに肩を叩かれ、リンクは苦笑した。
「レーツェル! いるか!」
と、マリオがやって来た。
「おるで」
「ああ、悪いが、車庫の中の乗り物全部、今日中に修理してくれ。明日から仕事を再開するからな」
「明日!? 今日襲撃受けたばっかやん!」
「人的被害がないからな。とにかく、急いで直してくれ。転送装置が使えない以上、乗り物に頼るしかないし」
「でも……」
「兄さん来てくれ!水道管にヒビが入ってる!」
「分かった! ……じゃあ、頼んだぞレーツェル」
そう言って、マリオは走っていった。
「……んなムチャクチャな……」
レーツェルは呆れた。
この部屋に来る前にちらりと見た屋敷は、壁も天井も穴だらけで家具やシャンデリアも粉々に砕けていた。そんな派手な戦闘をして、しかも休む間もなく修理などして、疲れていないはずはないのに……
「そうですか? 別に俺は構いませんけど」
リンクはのんびりと言った。
「まあ、どうせ元気な連中から引き抜かれるさ」
「ファルコみたいなのがな」
「レーツェル、心配してくれるのはありがたいけど、私達はプロよ。この程度のことで休業なんか出来ないわ」
「……タフやなぁ、みんな」
疲れているはずなのにやる気満々なメンバーを見て、レーツェルは呆れ混じりに感心した。
「ほら、行ってきなよレーツェル。こっちは何とかなるから」
「元々、お前の仕事はそっちだしな」
「あ、私のスターシップもよろしくね」
「アーウィンもな」
「……うん、分かった。ほな、超特急で終わらせて戻って来るからな!」
紅茶を一息で飲み干し、レーツェルは車庫に向かって走った。



車庫と呼ばれてはいるが、車よりは宇宙船や戦闘機の方が多い離れの格納庫で、レーツェルは1人修理に励む。
「……はぁ……」
普段通り、契約通りの仕事なのに、レーツェルの口からはため息がもれる。
車庫の被害はそこまでひどくなく、せいぜい壁の一部が崩れ(これは既に塞がれていた)、タイヤがパンクしていたりサイドミラーがへし折れていたりといったものばかりなので、少し頑張れば今日中に終わらせるのは無理ではないだろう。
「……はぁ……」
「何でため息つくんだ?」
「何でって、そりゃ向こうが気になるからや……!?」
慌てて振り向くと、そこにはファルコンがいた。
「よぉ」
「え、何でおるん? こんなに早く直らへんやろ、あれ」
まだ1時間と経っていないのに……
「ああ、あれ」
ファルコンは少し不機嫌そうに言った。
「あの後少ししてから、マスターハンドがいきなりやって来て直してった。ったく、直せるんならさっさと出て来やがれっての」
「……なるほどー……」
それは不機嫌にもなるだろう。今までの努力が無駄だったと言われたも同然なのだから。
「他の3人はそれぞれ用事があったから、俺がお知らせついでに手伝いに来たんだ。……ま、でもこれくらいならそんなに時間はかからんな」
車庫の中を見渡して、ファルコンはそう言った。
「うし、じゃあさっさと夕食までに終わらせるか。それなら夜にゆっくり休めるしな」
「そうやな」
レーツェルはニッと笑った。
「じゃあまずはフライヤーからやな!」





後書き



レーツェルさん雇用記念です。
……終わり方微妙……しかも関西弁適当やし…
関西の方、お願いですから怒らないで下さいね。悪気はないんです。