迷子の黒猫
ミュウツーは子供たちを避けて庭に出ていた。
“・・・ふぅ・・・”
あの子供らは、何故に自分を構うのか。脅しても効きはしないし、実力行使で追い払ってもなおまとわりつく。長らく孤独に慣れていたミュウツーにとって、まとわりつく子供たちは嬉しくはあったがかなり鬱陶しいものでもあった。
開けたところにいれば、すぐ見つかって追い掛け回されるのは目に見えている。ミュウツーは木々の生い茂った場所にテレポートした。
ぶに。
“・・・?”
足元に妙な感触。
ミュウツーが下を見ると、自分の足の下から手が生えている。・・・誰かを踏んづけているようだ。足をどかすと、白地に黒いラインの入ったTシャツと紺のハーフパンツを身につけた男の子が半ば土にめりこんでいた。
“・・・・・・”
どうやら、単に気絶しているだけのようだ。しかし放置するのも気が咎め、ミュウツーは深いため息をついて医務室にテレポートした。
「・・・にゃ・・・」
リョウが目を覚ますと、そこは病院のような部屋だった。
「お、起きたかね」
白衣を着たお医者さんがやってきて、ミルクの入ったコップをくれた。
「こ、ここどこにゃ?」
「ここはスマブラ屋敷、私はドクターマリオだ。・・・君は?」
「・・・リョウ・・・」
「リョウ君か。いや、私は獣人を見るのは初めてではないが、猫耳なのは始めてだ」
リョウの頭にくっついた黒い猫耳を見てドクターが言った。今は布団に隠れて見えないが、ちゃんと黒い尻尾もついている。
「それで、君はどうしてうちの庭に迷い込んだのかね」
「うん・・・僕、おつかいに行って、かえる途中で、道に迷ったのにゃ・・・」
「なるほど」
今回の客は迷子らしい。
「君の家はどこかね? 親御さんが心配しているだろう、送ってあげるよ」
「本当? ありがとにゃ!」
リョウはパタパタと手足と尻尾を動かして喜んだ。
「じゃあ、君の家がどこにあるのか教えてくれるか?」
「うん!」
“・・・そこまではまあ納得もいくが・・・”
ミュウツーは不機嫌そうに唸る。
“何故私がコレを送らねばならんのだ?”
『だって、あなたヒマでしょ』とピーチに言われてしまったせいである。・・・彼女に逆らうと不幸な目にあうのは火を見るより明らかだ。
『コレ』はミュウツーの不機嫌も知らずにキョロキョロとあたりを見回している。これだから子供は、とミュウツーはため息をついた。
“・・・それで、お前の家はどれだ”
「屋根が赤い家にゃ」
”・・・殆どの家の屋根が赤いではないか”
2つ3つならESPを使って調べてやるのだが、これだけ多いとやる気すら失せる。
「さっきの屋敷より小さい家にゃ」
・・・スマブラ屋敷より大きい家があったらとっくの昔に見つけている。
“・・・もういい。とにかく歩いて探すぞ”
「分かったにゃ」
リョウはうなずいててくてく歩き出す。・・・が、3歩も歩かぬうちに。
「あ、おいしそー♪」
“・・・待て”
近くのケーキ屋に飛び込もうとしたリョウをねんりきで引き戻す。
“寄り道をするな。早く家に向かえ”
「はーい・・・」
再び歩き出すリョウだが。
「あ、風船にゃ♪」
“・・・待て”
再びフラフラとどこかに行くリョウをつかまえる。
“・・・寄り道をするなと言っている”
「はーい・・・」
また歩き出すリョウを監視しながら、ミュウツーはこっそりため息をついた。
「ここにゃここにゃ!」
“・・・・・・”
リョウがようやく自宅にたどり着いた頃には、ミュウツーはすっかり体力も気力も底をついていた。
原因は無論リョウの寄り道である。あれ以降もおもちゃ屋やパン屋、果ては散歩中のダックスフンドにまで興味を示して走りより、その度にミュウツーが引き戻し本来の目的を思い出させたのだ。
はっきり言ってシャドーボールの1つでも投げつけたかったが、スマブラメンバーと違ってそれをやったら死にそうだったのでこらえることにした。
ピンポーンという軽快なチャイム音の後、しばらくしてからドアが開き、やっぱり黒い猫耳のついたおっとりした女性が顔を出した。
「ママ、ただいまー!」
「あら、おかえり。すごいわね、まだ1日しか経ってないのに」
飛び込んできたリョウを受け止めておっとりと呟く。
(1日で『まだ』かよ)
ミュウツーはそう思ったが、とりあえず表には出さないでおいた。
「あのねあのね、この人に送ってもらったのにゃ」
リョウが後ろに所在なさげに佇んでいたミュウツーを紹介する。
「あら、そうなんですか? すみませんねぇ、うちの子が迷惑かけて」
“・・・いや・・・”
にこにこと邪気もなく微笑みかけられるのは、慣れていないミュウツーにとって殺気をぶつけられるより向き合いにくい。ふいと視線をそらすミュウツーに気を悪くした様子もなく、一度家の中に引っ込んだ女性は何かの包みをミュウツーに差し出した。
「これ、うちで作ったアップルパイなんです。良ければどうぞ」
“・・・ああ”
「ミュウツー、ありがとにゃ」
リョウが手をバイバイと振り、女性がもう一度丁寧にお辞儀をしてドアを静かに閉じた。
“・・・・・・”
ミュウツーはつい受け取ってしまった包みを眺める。
“・・・子供らにくれてやるか”
まず自分の口には入らないだろうことを予想しながらも、ミュウツーはアップルパイを抱えなおしてスマブラ屋敷にテレポートした。
後書き
リョウさんリクエストのお話。
こんなに遅れてしまったのはひとえに夏休みに入ってパソコン浸りの生活を送っているからです(爆)
ごめんなさいごめんなさい。
ミュウツーとの絡みはまずまずだと思いますが、何か他がいい加減な気も・・・。
あああ、だめだ。もしかして夏バテ?(ありえん