子供の仕事
「え〜!?」
ネスとアイクラ、カービィは驚きの声を上げた。
「嘘じゃないよ」
子供リンクは心配そうに医務室を見上げた。
「みんな病気になっちゃったのぉ!?」
「病気というより、食中毒らしいよ。みんなうっかり、ゼルダの作ったクッキー食べちゃったみたいで」
ゼルダは、スマブラメンバーの女性陣にしては珍しく、家事に対して積極的でよく手伝おうとする。ただし絶望的に下手なので、リンクはやんわり彼女の手伝いを断っている。
「何で誰も気付かなかったのさ」
ゼルダの料理の腕は、砂糖と塩の区別がつかない程度ではない。塩と粉石鹸の区別がつかないレベルである。
「うん……兄ちゃんがゼルダにクッキーをもらった所にみんなが来て、兄ちゃんが作ったクッキーだと思って食べたんだって」
ちなみに子供リンクは大人リンクの事を兄ちゃんと呼んでいる。
「リンクもタイミングが悪いなぁ……」
「で、どうするのさ。ドクターは今日中には治るって言ってたけど、今日は大人は誰もいないよ」
「仕方ない、今日は僕らが働こう。いつもみんながやってるんだし、今日はお礼代わりに休んでもらおう」
ネスの提案に、
「そうだね、普段みんな頑張ってるし」
「たまには働くのもいいかもね」
「お仕事お仕事〜♪」
その場の全員が賛成した。……大人達が聞いたら卒倒しかねないが。
「OK! じゃあリンクとピカチュウは料理係、ポポとナナは掃除係、僕とピチューは応対係」
「ボクとプリンは?」
「2人は見張り係。空から偵察して、誰か来る時に教えて」
「分かった!」
「他に意見はない? じゃ解散!」
「ポポ、もう少し右」
「分かった」
「あっ、行きすぎ!」
掃除係になったポポとナナ。床の掃除は何の問題もなく終わったが。
「ナナ、気をつけて。手がお皿に当たりかけたから」
「ありがと」
そう、今彼らは応接室の飾り棚の中を掃除しているのだ。
よくリンクが「飾り棚なんだから、いつも綺麗にしないと」と言ってたのを、ナナが覚えていたのだ。
「大変だなぁ……リンクは、毎日ここを掃除してるのか」
いや、君たちが苦労してるのは単に身長のせいでしょう。
彼らは、身長を補うために肩車をして掃除している。これでやりやすい筈もない。
「疲れたなぁ」
「あっ、ポポ動かないで!……あぁっ!」
うっかりポポがバランスを崩し、ナナの手が滑り……
ガシャアンッ!
「あーっ!」
いくつかのお皿やティーカップなどが棚から落ちて割れてしまった。
「どうしよう……」
「ピーチ姫に怒られちゃう……」
2人は慌てて破片を拾い集めたが、そんな事で割れた皿が元に戻るはずもなく、2人はオロオロした。
「……仕方ない、隠そう」
「う〜ん、でも……」
「だって、きっとピーチ姫に怒られちゃうよ」
「でもバレちゃうよ、隠したって」
「大丈夫。この破片はどこかに埋めて、棚の中のものは配置を変えてごまかせば」
「……そうかなぁ?」
ポポはあまり乗り気ではなかったが、背に腹は変えられない。
ナナが棚によじ登って配置を変え、ポポが破片を庭に埋める事になった。
「……ふぅ、これでもう大丈夫ね」
「だといいね」
何とか偽装工作の成功した飾り棚を見て、2人はため息をついた。
さて、こちらは台所……
「ピカチュウ、ジャガイモとって」
「ピカ」
今回はどうやらシチューを作っているらしい。
クッパとガノンが一緒に入れそうな、鍋とは思えない巨大鍋いっぱいに作って、昼と夜をまかなおうというのだ。
2人は1時間かけて鍋に水を入れて火にかけ、今は材料を切っている。材料と言っても、ジャガイモだけでちょっとした山になっている。他の野菜や肉の総量は……やたらと広い台所の殆どを埋め尽くしている。
リンクが皮むきと材料切り、ピカチュウが肉を(電撃で)焼くのとゴミ捨てという風に役割分担はバッチリなのだが、いかんせん量が半端じゃない。
「はぁ……兄ちゃん、毎日3回もこれやってるのか……」
いい加減腕の疲れたリンクがため息をつく。
「ピィカ……」
ピカチュウもバテている。
ピカチュウが何度目かのゴミ捨てに行った時、
「…ピカ?」
食材の上をゴミ袋を持って走るピカチュウは、足元が沈んだのに気がついた。その次の瞬間、けたたましい音と共にニンジンの山が崩れた。
「ピカァ!?」
「ピカチュウ!」
リンクが立ち上がると、ジャガイモや玉ねぎの山も崩れた。
「何で?」
「ピカ……」
何とか這い出したピカチュウが、リンクの所に戻って来た。
「大丈夫?」
「ピカ」
ピカチュウはうなずいて、おもむろにジェスチャーを始めた。
「え〜、ニンジンの、下にあった、箱?……電子レンジか、が潰れた?」
ピカチュウはうなずいた。
そう、材料の重量で台所の家電が壊れてしまったのだ。
2人はしばし硬直して、
「……シチュー、作ろうか」
「…ピカ」
現実逃避する事にした。
「ぺぽ〜」
「プリ〜」
ふよふよと空に浮かぶカービィとプリン。何となく退屈そうだ。
「誰も来ないしね」
「プリ」
と、プリンの大きな目が見開かれた。
「プリ、プリン!」
「どうしたの?……あ〜っ!?」
プリンが指差した先を見たカービィも驚いた。
「あれは……ザコ敵軍団!」
あの独特な外見のヤツらがざっと100人ほど、遠くの村を襲っていたのだ。
「やっつけなきゃ! 行こう、プリン!」
「プリ!」
プリンはうなずいたが、そこで少し考え込んだ。
「どうしたのさ、プリン?」
「プリ……」
「ネス達に言わなくていいのかって? 大丈夫だよ、あの数なら」
お気楽なカービィの言葉に、プリンは思い直したようだ。
「プリン!」
「うん、手早く片付けよう!」
そして彼らは、誰にも言わず、ストッパーもいない状態で屋敷を離れた。
掃除の終わった玄関ホールでは。
「……まだ、誰も来ないよね」
「ピチュ」
他にやれる事がないため応対係になったが、ネスは元来無口な性格だしピチューはかなりの人見知りで、客と接するのにも心構えが必要なのだ。だからピンク玉コンビを偵察に出したのだ。
と。
ピンポーン。
「うわ〜っ!」
「ピ〜ッ!」
いきなりチャイムが鳴ったので、2人はひどく驚いた。
「何で!? まだ報告ないのに!」
ネスは知らない、あの2人が屋敷を離れた事を。
「すみません……誰かいますか?」
「あわわ……」
とにかく、来てしまった以上迎えないわけにはいかない。ネスは恐る恐るドアを開けた。
「……ん?」
ドアの前に立っていた客は、ネスを見て戸惑いの声を上げた。
……やたらがっしりした、強面の大男が。
(こっ、コワいよ………)
ネスは引きつったが、
「ど、どうぞ……」
何とか客を招き入れた。
「坊や、大人はいないのかい?」
「あ、あの、今みんな忙しくて……」
「そうか。待たせてもらっていいか?」
「は、はい……こっちにどうぞ」
姿の見えないピチューを心配しつつも、ネスは彼を応接室に案内した。
「え、と、どうぞ」
部屋の中に入り、客と向かい合って座る。
(うう……)
沈黙が痛い。ピチューでもいてくれたらよかったのにと考えながらも、何とか口を開こうとし――
「ん? 何だこれ?」
その前に、客はクッションの下から何かを掴みだした。
(えっ、ピチュー!?)
どうやら、怖くてここに隠れたらしい。
ぐっと強面に見つめられたピチューは。
「ピ……ピチュー!」
バチバチバチッ!!
恐怖のあまり全力で放電した。
「らぎゃああっ!?」
体内に直接電撃を叩き込まれた客は黒こげになって昏倒し、ソファーは破れたり焦げたりして使いものにならなくなった。……飾り棚にまで届かなかったのは、不幸中の幸いだろう。
「ピチュー!」
サイマグネットで電撃を吸収したネスが叫ぶ。
が、全力放電したピチューはすでに気絶していた。
「わあぁ、ヤバいよこれ〜」
ネスはあたふたした。
「何、何の音!?」
「どうしたのネス!」
騒ぎを聞きつけたポポとナナが、応接室に駆けつけた。
「ピ、ピチューが、お客さんに電撃を……」
ネスが震える声で説明する。
「大変だわ!」
「早くドクターの所に連れてかなきゃ!」
3人は彼を引きずって、医務室に向かった…。
「全く、何て勝手な真似をしてくれたんだ」
「ごめんなさい……」
しゅんとうなだれて、子供達はドクターに謝った。
黒こげの大男が運び込まれるまで子供達の動向に気付かなかったドクターはあまり強く言えずにため息をついた。
ちなみにアイクラがお皿を割ったのも、リンクとピカチュウが台所の家電を壊したのも既にバレている。
「私はもう何も言わないが、大目玉は覚悟しなさい」
更に子供達の肩が落ちる。
と、電話が鳴った。
「私がとる」
動こうとした子供達を手で制し、ドクターは電話をとった。
「はい、こちらスマブラ屋敷。……すみません、こちらの管理不行き届きです。誠に申し訳ありません」
ドクターは平謝りに謝って、電話を切った。
「カービィとプリンを迎えに行ってくれ。……戦闘で村を半壊させたそうだ」
何だかんだでバタバタしているうちに、皆の体調も良くなってきた。元々頑強な彼らだ、食中毒くらいで寝込むはずもない。
程なく子供達の「仕事」は大人達全員の知るところとなった。
「小僧どもが、余計な真似をして……」
「何考えてるんだてめえらは!?」
「ファルコ、怒鳴るな」
フォックスがファルコをなだめたが、やはり全体的に非難ムードだ。
「高い食器は割る、台所はグチャグチャ、客に電撃をかまして、挙げ句の果てに村を半壊させてるんだぞ?!」
「まあ、子供ですし……」
「やりすぎだ!」
「確かに、今回は度が過ぎますね」
「事は私達だけの問題ではありませんし」
大人リンクは子供達に同情的だったが、普段は温厚なマルスやゼルダもこの件に関してはかばうつもりはないようだ。
会合には半壊した村の村長もいた。リンクはフォックスと共に村長をなだめるのに懸命で、あまり子供達をかばえなかった。
そんな中、沈黙を保っていたマリオが口を開いた。
「どうして、こんな事をしたんだ?」
子供達は、一人ずつ答えた。
「……僕達、お手伝いしようと思って……」
「だって、みんな毎日働いてるのに、私達は遊んでるのよ」
「だから、みんなが寝込んだから、普段のお礼代わりに、僕達が働こうと思って……」
「安心してほしかったんだ」
「ピカ、チュ……」
「ボクたちだって、働けるんだよって」
「プリ…プリ」
「チュ、ピチュー」
ぐしゅぐしゅと涙をぬぐいながら言う子供達に、皆は気まずい空気で沈黙した。
……あのお気楽脳天気な子供達が、ここまで物を考えているとは思っていなかったから。
「……そう」
沈黙を破ったのは、ピーチだった。
「あなた達の考えはよく分かったわ。でも今回はやりすぎ……わかるわね?」
しゅんとうなだれる子供達を見て、ピーチは続ける。
「あなた達にこういう仕事は期待していないわ。あなた達の仕事は他にもあるのよ……下手に他人の領域に手を出したら、こんなに酷い状況になるの。分かった?」
「はい……ごめんなさい」
子供達はうなずいた。
「分かったならいいわ。
……村長さん、そちらの家屋の建て替え費用は全てこちらで持ちます。二度とこのようなことを起こさないという文書が欲しいのでしたら、今ここで子供達に書かせましょう――ゼルダ」
「はい」
ゼルダはリンクとロイの方を振り返った。
「リンク、ロイさん、コインを一万枚持って来て下さい」
「はい」
ちなみに、この世界のコイン一万枚は1億円に相当する。
「マルス、書類よろしくね」
「わかりました」
「後みんな、やるべき事は分かってるわね?」
ピーチがそう言うと、皆は笑いながら――あるいは文句を言いながら立ち上がった。
この事件を処理するために。
「な……」
理解できないという表情で固まる村長に、マリオが言った。
「彼らが俺達を助けようとしたのと同じ事です――仲間ですから」
迷惑いっぱいかけられてるけど、たまには喧嘩もするけれど。
みんな、大事な仲間だから。
本当に困った時には、何があっても助けるよ。
「これに懲りたら、少しは大人しくしなさいよ?」
にっこり笑うピーチに、子供達は泣きながらうなずいたのだった。
――助けてくれて、ありがとう。
事件は、皆が駆け回ったおかげで何とか事なきを得る事が出来た。
それから数日――
「待てー!」
「カービィ逃げて!」
ドカァン!
「やった〜、カービィ鬼〜」
「くそ〜」
子供達は、今日も元気に遊んでいる。
「てめえら、静かにしろっ!」
書類の片付けをしていたファルコが怒鳴る。
「ファルコだ〜」
「逃げろ〜」
だーっと脱兎のごとく逃げ出す子供達。それに大人の誰かが怒鳴ったり、物を投げつけたり銃を撃ったりするのが彼らの日常だ。
「平和ね」
「うん」
ゼルダとリンクはその声を聞いて笑いあう。
間違いまくってる気がひしひしとするが、この光景が彼らの平和の証明なのだ。
「やっぱり、子供は楽しそうに遊んでいるのが一番ね」
爆音と笑い声と怒鳴り声がすれば、今日もスマブラ屋敷は平和だ。
後書き
ごめんなさい。
お子様軍団のハチャメチャギャグのはずが、こんな訳の分からない文になりました。
ギャグなの最初だけじゃん。
期待を裏切ってごめんなさい〜……出直して来ます。
オマケ
全員に料理禁止令を出されたゼルダ姫。
「いつか、私の手作りクッキーをリンクに食べてもらうんです!」
と意気込んで、料理の本を買い込んだとか……。
「ゼルダ……まずは砂糖と塩を見分けることから始めなさいな」
ピーチは呆れてそう言ったが、ゼルダには届かなかった。
end♪