家族でお料理コンテスト


「『家族でお料理コンテスト』?」
登山から帰って来たアイクラにもらったビラを一通り眺めて、リンクは首を傾げた。
「うん、リンクにどうかなって思って」
「でも2人以上で参加だよ?」
「子リンクがいるじゃない。2人なら兄弟で通るわよ」
「う〜ん、でもだますのはよくないよ」
「大丈夫だって!」
「そうそう、リンクなら優勝できるし」
リンクはほのぼのとしたイラストの描かれたビラの下部をもう一度見た。
『優勝チームには家族で行ける温泉旅行をプレゼント!』
「……温泉って何だろう?」
「温かい泉だよ、そのまんま」
「気持ちいいのよ。体にもいいし」
「へぇ……」
リンクはビラを丁寧に畳んでしまった。
「じゃあ、リンクとピーチ姫に訊いてみるよ」
「そうだね」
「2人とも多分OKだろうけどね」



何事にも興味津々な子供リンクや面白い事好きなピーチが首を横に振るはずもなく、リンクと子供リンクは揃ってコンテストに出場する事になった。
「……あ、でも名前どうするの?」
「ん?」
ステージの脇で子供リンクが話しかけてきた。
ちなみに2人ともコキリ服ではなく普通の服を着ていて、剣も荷物の中にしまってある。もちろんエプロン(&三角巾)はお揃いで、トライフォースのアップリケがついている。
「だって僕達同じ名前じゃん。まずいよ」
「大丈夫。ちゃんと適当な偽名使ってるから。あ、そっちはそのままリンクだからね」
「うん。僕も普段通り兄ちゃんって呼ぶね」
そう子供リンクが言った時、ファンファーレが鳴った。
「レディースアーンド、ジェントルメーン! これより、『家族でお料理コンテスト』を開催しまーす!」
司会の男性が言うと、わっと歓声が上がった。
「ではこれより出場する家族の皆さんを紹介します!」
他の家族は大抵3、4人で参加していて、2人なのはリンク達だけだった。
「では最後、エントリーNo.12番、スマブラ家のシークさんとリンク君の兄弟です」
「……本当に適当だね」
「凝った名前なんてつけられないよ」
リンクは苦笑して、ステージに上った。



「ルールは簡単です。ここにある食材を使って、一家族4人分の料理を作って下さい。制限時間は1時間。では皆さん位置について」
皆、それぞれ割り当てられた調理台の前に立った。
「よーい、スタート!」
ピーッというホイッスルの音が、調理開始を告げた。
「何作る?」
「ん、お昼ご飯みたいな感じなのを」
「OK」
流石は同一人物、そんな意味不明な会話でも意志の疎通ができたようで、2人揃って食材を取りに行った。
「チキン、蜂蜜、ローリエ、ホールトマト……」
「あ、バジルとモッツァレラチーズも。後チェリートマトを」
「分かった」
そんなこんなで食材を確保し、下拵えにかかる。
「リンク、玉ねぎのみじん切りと鶏肉の下拵え、どっちがいい?」
「鶏肉。玉ねぎは目にしみるもん」
「……やっぱり」
「あ、焼くのは兄ちゃんがやってね。僕はマリネとスープ作るから」
「はいはい」
玉ねぎの皮を剥きながら、リンクが苦笑した。



「おや、メインは鶏肉ですか」
回って来た司会が、子供リンクが小麦粉をまぶしている鶏肉を見て言った。
「うん! 後は冷製スープとマリネだよ」
「そうですか。……おや? このジャガイモは?」
水を満たしたボウルの中には、薄くスライスされたジャガイモが沈んでいた。
「それがスープになるんだよ。後はねぇ……」
「リンク? これ以上喋ったら駄目だよ」
玉ねぎを炒めていたリンクが、子供リンクの耳を引っ張った。
「痛っ、分かったから!」
「残念ですね、楽しみだったのに」
「一時間後を楽しみにしていて下さいね」
にっこりと『キラースマイル』(命名・ピーチ)を浮かべると、司会もこれ以上聞き出すのは無理だと悟ったのだろう。
「そうですか。では、楽しみに待つとしましょう」
と穏便に場を収めて他の参加者の所へ向かった。
「はい、交代」
リンクはフライパンを渡して、チェリートマトのヘタを取り始めた。
子供リンクはフライパンの玉ねぎを鍋の中に作っておいたコンソメスープの中に入れ、ジャガイモも入れた。
「ねえ、裏ごしは何回やるの?」
リンクが鶏肉を焼いていると、子供リンクが訊いてきた。
「あまり時間がないし、今回は『みきさあ』を使おう」
「どうするの?」
「あ、その前に白ワインを取ってくれ」
「はい」
子供リンクが白ワインのボトルを渡す。
「まずは上の容器に混ぜたいものを入れる」
「うん」
「で、元の所に戻す」
「うん」
「それから、蓋をしてスイッチを入れるんだ」
「スイッチは……これかな?」
あちこちいじっていた子供リンクの指がスイッチにあたり、低い唸りと共にミキサーが動き出した。
「うわっ、びっくりしたぁ。……でも便利だね」
「そうだね」
器用に包丁でホールトマトの缶を開けながら、リンクがうなずいた。
「じゃ、モッツァレラチーズを薄く切って」
「うん。マリネに使うの?」
「ああ。終わったらバジルを千切って乗せて、オリーブオイルと塩胡椒で味を整えて」
「OK」
スープを裏ごししながら鍋に戻し、牛乳を加えて火を少し落とす。
「後は煮込みだけだからね、俺1人で見られるよ。食器を用意してくれ」



「さあ、皆さんの料理が完成しました。……う〜ん、どれも美味しそうです」
12のテーブルに並べられた料理を見渡して、司会はため息をついた。
「では、審査員の皆さん、お願いします」
7人の審査員が、それぞれのテーブルの料理をつまみながら何やらフリップに書き込んでいく。
「ドキドキするね」
「ああ」
審査員は皆和やかに話し合っているが、やはりある種の緊張感が漂っている。
話し合いが終わり、審査員達が司会に何やら伝えている。
「……どうやら、結果が出たようです。さあ、審査結果を発表します!」
わ〜っと歓声が上がった。
「ではまず、審査員特別賞からです。……エントリーNo.2! マクレガー家の皆さんです!」
呼ばれた一家は抱き合い、それを見てまた歓声が上がる。
これ以外にも発表されたが、そのどれにもリンク達は呼ばれなかった。
「ではいよいよ! 栄えある優勝チームは……」
ドロロロ……とドラムロールが鳴った。
「…………エントリーNo.12! スマブラ家の皆さんです!」
わあああっ!
一際大きな歓声が上がった。
「やった! 兄ちゃん、優勝だ!」
「やったな、リンク!」
2人は手を取り合ってはしゃいだ。
「さあ、前へどうぞ」
司会に促され、リンクと子供リンクはステージの中央に立った。
「優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
トロフィーをリンクが、目録を子供リンクが受け取って、観客席にそれを掲げて見せるとまた歓声が上がった。
「ご感想を一言!」
「とっても嬉しい!」
「いい思い出になりました」
「そう言えば、お二人は最年少かつ一番人数の少ないチームなんですよね。大変じゃなかったですか?」
「まさか。普段はもっと作ってますから」
そう、それこそ山のように。
「そうなんですか。いやすごいですね」
「そうでもないですよ」
「では皆さん、優勝者に盛大な拍手を!」
耳が割れそうなくらいの拍手と歓声が、リンクと子供リンクを称えた。



「……でも、2人で行っても仕方ないよね。温泉」
コンテストからの帰り道、子供リンクがそんなことを呟いた。
「そうだな。でも、いいお土産話が出来たじゃないか」
「そうだね」
「まあ、これの使い道は後で皆と相談して決めよう」
「うん。もしかしたら皆で行くかもしれないね。足りないチケット買って」
「じゃあ、折角だから今夜はコンテストで作った料理をもう一度作ろうか」
「あ、グッドアイディア」
「手伝ってくれよ」
「え〜っ」
「何で嫌がるんだよ」
楽しそうに笑いながら夕焼けの道を歩く2人。
この後カービィに温泉旅行のチケットを食べられる運命も知らず、皆の待つ屋敷に向かうのだった。





後書き

垂れ幕さんリクエストの、リンク&子供リンクのほのぼのです。
……ってか料理話じゃん。
今回は珍しく料理に凝りました。
レシピは、栗原はるみの「私のおもてなしレシピ」「もう一度、ごちそうさまが聞きたくて」、榎木洋子&後藤星の「龍と魔法使い 公式ガイドブック」より取りました。
待たせた割に訳のわからん話ですみません。
…ちなみに、あの司会が垂れ幕さんなんですが、分かりますかね(分かるか