脱出大作戦!
「さて、困りましたね」
「どうしましょうか」
それぞれ段ボール箱と脚立に腰掛け、ヒカリとマルスは呟いた。
「早くこれを届けて、図書室に行きたいのですが……」
そう言うマルスの膝には、空のくす玉。
「私もそろそろ休憩したいですし」
ヒカリもため息をついて、倉庫の鍵を指先でクルクルと回した。
「一体誰が、鍵かけたんでしょうねぇ」
2人のため息が綺麗に揃い、小さなハーモニーを生み出した。
ヒカリがいつものように倉庫内のアイテムとリストを確認していると、マルスがいくつかのアイテムを取りにやって来た。
数点のアイテムはかなり奥の方にあったためマルスにも手伝ってもらい、持っていくアイテムをリストに書き込んでサインをもらい、ついでに休憩しに行こうとしたところで、いつの間にか扉が閉まっているのに気が付いたのだ。しかもご丁寧に鍵まで。
鍵はヒカリも持っていたが当然内側からは開けられず、倉庫には爆発物も置いてあるため窓も抜け道もない。
……2人は、閉じ込められたのだ。
「さて、夕食までに何としても抜け出したいのですが……」
夕食の時間になれば2人がいない事は気付かれ、ヒカリが一番いそうなこの倉庫は必ず捜されるだろう。だが夕食まではまだ時間がある。
「……仕方ない、ドアを壊しましょう。理由を話せばきっと分かってくれます」
「そうですね」
今月はまだどこも壊れてませんし、と結構ずれた意見。
「そうなると、ファルシオンを持って来なかったのは痛いですね……」
マルスは、剣も鎧も身に付けていない。戦いに来たわけではないのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、今となっては悔やまれる。
「なら、これはどうでしょう」
ヒカリはビームソードを持って来た。
「そうですね、試してみましょう」
マルスはビームソードを受け取り、扉の前に立った。
「……フッ!」
気合いを込めてビームソードを振るう。長く伸びた光の刃は扉に当たって軽く弾かれた。
「なっ!?」
「……何て頑丈な」
傷一つない扉を見て、ヒカリはため息をついた。
「他に使えそうなのは……これはどうでしょう?」
ヒカリはホームランバットを持って来た。
「やってみます」
マルスは再び扉の前に立ち、ホームランバットを思いきり振った。
カキーン!
「……駄目ですね」
「う〜ん……ハンマーが品切れなのは惜しいですね」
ヒカリは首をひねって手元のリストに目を落とした。
「ないんですか?」
「ええ、今夜10本搬入されることになってます」
つまり、当てにならないということ。
「そのリスト、見ても構いませんか?」
「ええ、どうぞ」
ヒカリから受け取ったリストとしばらくにらめっこをした後、マルスはふとあるアイテムに目を止めた。
「そうだ、スーパースコープ! 最大タメで使えばもしかしたら……」
「そうですよ!」
ヒカリはスーパースコープを持って来た。
「念のため、僕の後ろにいて下さい」
「はい」
マルスは片膝をついて扉に狙いを定め、スーパースコープのチャージを始めた。
「いきます!」
ドンッ!
放たれた巨大なエネルギー球は扉にぶち当たり、ひしゃげたような音がした。
「効いてるみたいです!」
「もう一発いきます」
再びマルスはチャージを始める。
「いきま……」
と、その時、鈍い音がして扉が開き始めた。
「! 危ないっ!」
が、時既に遅し。
「のわあっ!?」
放たれた巨大なエネルギー球は、半開きの扉ごとその誰かを吹き飛ばした。
「……」
「……」
「……扉、開きましたね……」
「……ええ……」
もうもうと舞い上がる埃の中、2人はただ呆然と立ち尽くした。
ちなみに。
瓦礫の下からファルコを引っ張り出して医務室に連れていき、アイテムを届けるついでに事の顛末をピーチに報告したところ、
「あら、ドアじゃなくて壁を壊せばよかったのに」
と言われてかなり落ち込んだのは、2人だけの秘密である。
後書き
天宮ヒカリさんの依頼作品。
完成したのが年末だったため、なかなか上げられず……ごめんなさい。
で、鍵閉めたのは結局誰だったんでしょうか? という話でしたら、実は一時機嫌が悪かっただけというミステリーでは反則なネタだったりします(だから作中で言及しなかった)。
牧場の隣にあるいもチップス工場(?)の芋用冷凍庫も、閉めてすぐ開けようとするとなかなか開かないんですよね。いや関係ないけど。
ちなみに、倉庫に閉じ込められるネタは動物のお医者さんより。
「畳の上で死にたいんだ!」と叫ぶと無言で畳を指差されるあのシーンが好きです。