自由の翼は誰がために
「よし、完成!」
出来上がった試作品を手に、ペカチュウはガッツポーズをとった。
「後はピーチ姫に見せるだけだな♪」
起動させないようにそっと箱の中に入れて、ピーチを探しに行く。
彼女は大抵、テラスかリビングかテニスコートにいる。ペカチュウは一番近いテラスに向かうことにした。
たまに昼食をとることもあるテラスは、スマブラ屋敷の中で最も居心地のいい場所の1つだ。ピーチやゼルダはよくここでお茶会を開いているのだが、今日は2人ともいない。
「ん? 珍しいな、ペカチュウがテラスにいるなんて」
庭で自主トレをやっていたロイが、ペカチュウを見つけてテラスに上がった。
「ああ、ピーチ姫を探してるんだ」
「ピーチ姫ならテニスコートだよ。さっきラケット持って出ていったから」
「そっか、ありがとな」
「ところで、その箱は何だ?」
「ふふふ、よくぞ訊いてくれました」
ペカチュウはニヤリと笑い、黒塗りの重そうな箱の蓋を開けた。
「ついさっき完成したばかりの新アイテム、その名も……」
と、その時ふとした弾みでペカチュウの手から箱が滑り落ちた。
「あっ」
とっさの事に、2人は反応出来ずにそれを眺めた。箱はテラスの床に転がり――
箱から転がり出た、白い羽を持ったボム兵がパタパタと飛んでいった。
「しまった! 起動しちまった……」
「……今のが新アイテムか?」
ロイが訝しげに訊く。
「ああ。対ザコ敵軍団用に、威力と機動性を高めて自動追尾機能もつけた“ウィングボム兵”だ。まずい、あいつは動く人型のものに近づくんだ!」
「……参考までに、威力を訊いていいか?」
「まだテストしてないから何とも言えないけど……制作段階で強めの火薬を普通のボム兵の2倍強入れたな」
「うわぁ」
ただでさえ最凶爆弾の誉れ高い(嘘つけ)ボム兵だ。それの2倍強の威力となると……。
「どのくらいで爆発するんだ?」
「分からないよ。試作品だから」
「そうか……とにかく早く捕まえないと! 行くぞペカチュウ!」
「おう!」
ペカチュウとロイは走り出した。
『9回裏、ツーアウト満塁、ピッチャー、リンク選手、バッター、ネス選手』
ナナ……もといウグイス嬢のアナウンスをバックに、ネスは緊張と興奮の入り混じった顔でバットを構えた。
リンクは変化球こそ投げないものの、ストレートのスピードが速い。読みを間違えれば、次はない。
リンクも、読まれれば打たれると知っているから慎重にコースを決める。大きく振りかぶって、運命の一球を放つ!
(――見切った!)
ネスはバットを振るい――
が、その時、ちょうどふらりと飛んできた妙な物体が運悪くボールの直撃を受けた。その勢いのまま、それはネスの方にはじかれ――
カキーン!
見事なホームランとなった。
「ねえ……今の何?」
「さあ……黒くて丸かったよね」
皆マウンドに来て、この不測の事態をどう収めるか話し合った。そこにロイとペカチュウがやって来た。
「なあ、ここに羽の生えたボム兵が来なかったか?」
「あ、あれボム兵だったんだ」
「知ってるのか?」
全員がこくりと頷いた。
「ホームランされてあっちに飛んでったよ」
「そっか、ありがとな!」
2人はそこへ向かった。
稲妻の如く閃いた刃を軽くそらし、無防備な足を狙う。後ろにかわされたのを見てとると、次は剣で追撃をかける。
微妙に色合いの異なる蒼の瞳が互いの隙を探る。その間にも、舞踊にも似た二振りの剣の攻防は続く。
爽やかな真夏日の中、リンクとマルスの周囲だけが冷たくとぎ澄まされた剣気に支配されていた。
「いつ見てもすごいわね、三騎士の稽古」
「ええ」
うだる暑さをさけて木陰に座るサムスとゼルダは、その稽古と呼ぶには激しすぎる応酬をぼんやりと眺めていた。
「太刀筋が全然見えないのよね。大技使わないから特に」
「私はリンクのなら何とか見えますが……マルスさんのは無理ですね」
「まあ、剣速はマルスが上だからね」
「じゃあ、どっちが勝つか賭けますか?」
「そもそも賭にならないでしょ。ゼルダはリンクにしか賭けないんだから」
「当然ですよ」
そんな無責任な話をする2人の目に、空から落ちてくる黒い物体が映った。
「あら、あれは何かしら」
「このままじゃ、2人の近くに落ちるわね」
サムスは護身用の銃を抜き、それに向けて発砲した。
パパパンッ!
「すごいですね、全弾命中です」
「ま、このくらいはね」
それは壊れはしなかったが、軌道を変えられどこかに落ちていった。
と、そこにロイとペカチュウがやって来た。
「なあ、ここに羽の生えたボム兵が来なかったか?」
「あ、あれボム兵だったの」
「知ってるのか?」
「あっちに落ちていくのを見ましたよ」
ゼルダが、間違ってはいない答えを返して落ちた方を指差した。
「そっか、ありがとな!」
ロイとペカチュウはその方向に向けて走り出した。
……が。
リンクに蹴り飛ばされたマルスが地面の上を転がり、ペカチュウ達の近くで止まった。当然リンクは追撃をかけている訳で。
「どわぁ!」
「危ないペカチュウ!」
ロイは巻き込まれそうになったペカチュウを引き寄せた。
「そうそう、2人の半径10m以内は危険よ。注意してね」
「ひんやりした感じがすれば危険ゾーンです」
サムスとゼルダが、木陰から移動しながら教えてくれた。
「……詳しいな」
「よくこうやって涼んでますから」
「そうなんだ」
何ともビックリな涼み方である。
流石に突っ切る気にはなれず、2人は遠回りしてボム兵を追った。
「ん?」
台所で食器を洗っていた怜は、窓から入って来たボム兵に目を丸くした。
「誰かが逃がしたのかな」
彼はひょいとボム兵を捕まえ、アイテム倉庫に向かった。
「お、怜か」
「あ、すみませんがこれを戻してもらえますか? 誰かが逃がしたみたいで」
「ああ、いいぜ」
怜はたまたま通りかかったファルコにボム兵を渡した。
「怜! ボム兵を見なかったか?」
「ええ、さっきファルコさんに渡しました」
そのファルコは、アイテム倉庫にそれを置いて仕事に戻っていた。
「ああ、爆発物の棚に置いといたぜ」
しかし2人が向かった時には、既に逃げた後だった。
“……それなら……車庫の方だな……”
たまたま近くを通りかかったミュウツーが教えてくれた。
2人が車庫に向かうと、ファルコンとレーツェルがオーバーホールをしていた。
「ああ、ファルコンが窓の外に放り投げとったけど」
「結構遠くまで飛んだぜ」
教えてもらった方に向かうと、G&Wが花に水をやっていた。
「……」
「あっちか」
二次元ジョウロで三次元の花に水をやれるのか疑問だったが、ロイとペカチュウはボム兵の捕獲を優先させた。
「はぁ……はぁ……一体どこまで逃げんだよ……」
「ほらペカチュウ、へばってる暇はないぞ」
ロイはペカチュウの手を引っ張った。
G&Wのサインボード通りに屋敷の中に入る。
「…はい……わかりました。……ええ……」
電話の応対をしているフォックスに身振りで問いかけると、彼は無言で階段を指差した。
階段を上がると、ガノンドロフとクッパが歩いているのを見つけた。
「なあ、ボム兵を見なかったか?」
「…ああ。鬱陶しかったから窓から投げ捨てた」
「ピーチ姫に見つからないうちに、早く捕まえた方がいいぞ」
「分かってるよ」
2人は再び庭に戻った。
「……いた!」
ペカチュウが、ほよほよと飛ぶボム兵を発見した。
「よし、捕まえるぞ!」
が。
「ぺろ〜ん」
「あーっ!」
たまたまそこにいたヨッシーが、それをパクリと食べてしまった。
「……ぅえ〜」
しかし不味かったらしく、ヨッシーはすぐにボム兵を吐き出した。ボム兵はコロコロ転がり、ドンキーの足元で止まった。
「ウホッ!? ボム兵!」
「待てドンキー、それを投げ……」
しかし時既に遅く、ドンキーはボム兵を思い切りぶん投げてしまった。
棒のような足を必死で動かし、ペカチュウとロイはボム兵を追いかける。
「いたぞ!」
ロイが前方を指差した。ボム兵は、ちょうど金網の隙間をくぐり抜けている所だった。
「ちっ、ちょこまかと〜……」
「あっちに入り口がある。追うぞ!」
入り口から入ると、マリオを審判にしてピーチとルイージがテニスをしていた。
「やあ、ロイにペカチュウ。どうしたんだ、そんなに息を切らして」
「大変なんだ……ボム兵が……」
ちょうどその時、ふらふらっと飛んできたボム兵が力尽きたようにテニスコートに落ちた。
「あれ? こんな所にボム兵が……」
「あっ、それに近づいたら……!」
ペカチュウの警告より早く。
ズドン!
「あわわわわ……」
哀れルイージは、青空に輝く星となった。
「……つまり、あれの事言いたかったのね……」
ピーチの言葉に、2人は頷く気力もなかった。
ちなみに。
結局“ウィングボム兵”の量産は予想通り却下されたが、その理由が
『何か兵器として使うには可愛すぎるから』
というピーチの意見だった事だけは述べておく。
後書き
ペカチュウさん雇用記念です。
ドタバタというか……一方的に走り回ってるだけじゃん。
こんなものですが、楽しんでいただけると幸いです。