強盗と嘘と缶ジュース


「全員動くな! 手を上げろ!」
そう叫んで銃を突きつけてくる覆面レスラーまがいの連中に、聖光は律儀だなぁと呟いた。
「おいお前、手を上げろ!」
「僕はお前ではなく、武藤聖光といいます。聖なる光と書いて“きよみつ”と読むんですが、いい名前でしょう」
「お前の名前なんか知るか! 手を上げろって言ってるんだ!」
銃口で小突かれ、聖光はやれやれとため息をつきながら両手を上げた。
強盗達は人質をフードコートに集め、5人でその周囲を囲んで見張った。2人は交渉のためだろうか、どこかに姿を消す。
「……困りましたね」
「一応剣は持ってきてるけど……」
「今ここで出すのは逆効果でしょうね」
ふと、怯えているのとは違う囁き声が聞こえ、聖光はその声の方に向かった。
「何の話ですか?」
「ああ、あの連中をどうにかしようと思って……今日は夜までに帰ってくるように言われてるので」
囁きあっていた2人のうち、長い金髪を無造作にくくった青年が答えた。女性の方は少し目を丸くして聖光を見ている。
「出来るんですか?」
「私達は出来もしないことは言いませんよ、武藤聖光さん」
今度は女性が口を開き、青年がそれにわずかに苦笑した。
「僕の名前を知ってるんですか?」
「さっき名乗っていたでしょう」
それもそうかと聖光は肩をすくめた。
「とにかく、状況が変わればどうにかなるんですよね?」
「ええ。でも、どうやって?」
青年の問いに、聖光は目を細めた。



「おい、人質をちゃんと見張っとけよ。変な動きをしたら撃って構わねぇ」
「あのー」
強盗達の中のリーダーらしい男に、聖光が話しかける。
「こんな開けた所で僕達を見張りつつ警察を警戒するのは無理なんじゃないですか?」
「うるせぇ、黙ってろ!」
銃口を向けられても聖光は眉一つ動かさずに続ける。
「僕はあなた達が捕まろうが逃げようがどうでもいいんです。でもすぐ近くで銃撃戦が繰り広げられるのは嫌なんです」
「じゃあどうしろってんだ」
「屋上駐車場のエレベーターホールはどうですか? あそこなら出口は実質2箇所しかありませんし、ここから近いから移動も楽ですよ」
もっともらしい言葉を並べる聖光に、強盗はうっとうなってしばらく考え込んだ。
(あ、ちょろいかも)
他の仲間にも相談に行った男を見て、聖光は内心ほくそ笑んだ。
「……どうするんですか?」
先程の女性――ゼルダと名乗った――がそっと話しかける。
「ちょっと移動してもらうんです。あそこなら見張る場所は2箇所……しかも、お互いを確認しにくい」
「つまり、片方ずつ倒せということですか」
青年――こちらはリンクと名乗った――が、こちらの意を得たようにうなずいた。
「おい、お前ら、移動しろ!」
「……人質を移動させるのって、結構危ないと思うんですけど」
そう嘯きながら、聖光は他の人達に倣って歩き出した。



「……で、どっちから先にやります?」
「中の方が見通しがききにくいですから、そっちがいいでしょう」
屋上駐車場のエレベーターホールに移動し、人々の中にまぎれながら聖光達は再び作戦会議を始める。
「中はそれでもいいけど、逃げる途中でバレたらまずいんじゃないですか?」
「そこは私が。ただ、他の方々が確実に逃げ出してくれないと難しいのですが……」
「ああ、それなら僕にまかせて下さい」
聖光が胸を張った。
「あ、でも、やっぱりある程度は外の人達の注意もそらして欲しいですけど」
「それも私に任せて下さい」
「俺は?」
「中の見張りを倒したら、すぐに人の流れに巻き込まれないように移動して次の攻撃の準備をして下さい」
聖光が締めくくると、ゼルダがにこりと微笑んだ。
「では、頑張りましょう」



――ドォンッ!

「何だ!?」
「突入かっ!」
駐車場の片隅で響いた小さな爆音に、外にいた見張りは全員その方向に銃を構え、人質は怯えたようにざわめいた。
(今です!)
どこにどうやって隠していたのか、青い剣を取り出したリンクは鞘がついたままのそれで中の方にいた強盗達を次々倒していく。
「すごーい」
瞬きする間に、全員が気絶して転がった。
「聖光さん、人質を!」
「はい。……みんな、今のうちに逃げよう!」
外に聞こえない程度に大きな声でそう言うと、聖光は何のためらいもなくエスカレーターを駆け下りた。それにつられて何人かが逃げ出し、やがて全員が逃げ始める。
「! おい、人質が逃げるぞ!」
ようやく異変に気付いた残りの強盗達が慌てて銃を向け直すが。
「させません」
その前に立ちはだかったゼルダがそう言うと、蒼いガラスのような壁が現れ銃弾を全て防いだ。
「何っ!?」
役目を終えて砕け散る障壁の破片の雨の中をかいくぐるようにして、リンクが強盗達に向かって突っ込んでいく。
彼らが倒されるまでに、さしたる時間はかからなかった。
「これで終わり……か」
「……! 1人足りないわ!」
「お前ら……よくも……っ!」
その逃した1人が、血走った目で2人を睨みながら銃を構えた。
「殺してやるっ!」

ガンッ!

「がふぅっ!」
顔面に缶ジュースがクリーンヒットし、強盗はゆっくりと倒れていった。
「……これで最後ですね」
転がった缶ジュースを拾い上げた聖光に、2人は苦笑した。



「おかげで助かりました。危うく遅れてしまうところでした」
燃えるような夕陽の中、ゼルダが頭を下げる。
「いいんですよ、僕も予定があまり崩れずにすみましたし」
強盗は怖くないのか――という突っ込みを、聖光はしなかった。
「じゃあ、また会うことがあったら」
聖光は2人と軽く握手をし、夕陽の中を帰っていく2人の背中を見つめた。
……そして気付いた。
「……あ、警察の事情聴取……どうしよう」





後書き



聖さん依頼作品です。
一ヶ月以上も遅れたのは気にしないd(殴蹴斬

強盗モノでギャグは……正直厳しかったです。
だってリンクとゼルダは強盗なんてメじゃないくらいに強いし、聖光さんは何故かサラ・バーリンとキャラがかぶってしまって過激になるし……。
そうか、アダッチマンの登場シーンを勉強するべきだったか!(マイナーネタやめろや