台所攻防戦


「あ、ちょっとそこの塩をとってもらえます?」
「はい」
「どうも」
午前10時、リンクと怜は昼食の準備に取り掛かっていた。…早いなどとは言うなかれ。20数人分に、カービィ&ヨッシーの大食いコンビの胃袋を満たす量を作るのだ。今から始めないとお昼に間に合わない。
「今日は何ですか?」
「トマトベースのスープと、若鶏のソテーと、野菜の付け合せです」
「なるほど……じゃあ僕は野菜の下ごしらえをします」
「助かります」
鶏肉の下ごしらえをしていたリンクは微笑んだ。
「リンク、大変よ!」
と、ピーチ姫が飛び込んできた。
「どうしたんですか?」
「ゼルダが部屋に鍵かけて閉じこもっちゃったの。お願い、何とか説得して!」
「…何があったんですか?」
「それが分からないからあなたに頼むのよ」
「分かりました。怜さん、すみませんがしばらく台所をよろしくお願いします」
「はい」
リンクはピーチ姫に連れられて台所を出て行った。
「さて、野菜は終わったし、次はスープか」
ホールトマトの缶をまとめて20個開け、大きな鍋に放り込む。別の鍋で作ってあったコンソメスープをその中に注ぎ込み、玉ねぎのスライスやニンジン、ベーコンを入れる。
……と、怜は小さな足音に気付いた。
(この足音は……カービィ)
主に台所を任されるようになってから、怜はカービィとヨッシーの足音を聞き分けられるようになっていた。
やれやれとため息をつきつつ、フライパンを手にとる。
「…………そこっ!」
パコォン!
「うわぁああ!」
気合一閃、フライパンがクリーンヒットしたカービィは台所から弾き飛ばされた。
「全くもう……」
……怜がスマブラ屋敷で働くようになって、身についたスキルがある。
大量の食材を手早く処理するスキル、つまみ食いを狙う者の気配や足音を察知するスキル、調理器具でつまみ食い犯の手から料理を守るスキルの3つだ。
最初の以外は役に立つのか立たないのか微妙だが、カービィとヨッシーのコンビアタックをフライパン一本で捌きつつ料理を作るリンクの姿を見る限り、ここで台所に立つものには必要不可欠のスキルらしい。
そのスキルが、怜にカービィの再度の襲来を告げている。リンクがいない今、力押しで来られては怜に勝ち目はない。
「どうしようか……あ」
いいものを見つけ、怜の顔に勝利を確信した微笑みが浮かんだ。



カービィはそっと物陰から怜の様子を窺っていた。
怜はスープ皿にスープをよそい、一口だけ口をつける。
「うーん、ナツメグでも入れたほうがいいかな」
そう言ってスープ皿を置くと、調味料をしまってある棚に向かった。
(――チャーンス!)
ピカチュウ並の素早さで音も無く調理台の上に上ると、スープ皿を確保する。……怜は目当ての調味料が見つからないのか奥のほうを覗いている。こちらには気付いていない。
「やった、ボクの勝ち!」
カービィは、ほとんど飲まれていない赤いスープを一気に飲み干した。
「――!?」



「すみません怜さん、遅くなって」
「構いませんよ。後は肉を焼くだけですし」
茹でたブロッコリーを鍋から上げながら、怜が言った。
「そうですか。では早く仕上げましょう。……ん?」
リンクは調理台の上にあるものを見つけた。
「あれ? 何でこれが?」
「あ、僕片付けます」
怜は半分程に量を減らしたお徳用タバスコ1Lのビンを、元の場所に戻した。





後書き



怜さん雇用記念です。
カービィが好きとのことで、カービィを絡めてみましたが・・・いいのかこれ。
何でゼルダが部屋に閉じこもったのだろうとか、カービィはあの後どうなったのだろうかとか、そういう事は考えてはいけません。あんまり難しいことを考えるとおなかが空きますよ。

ちなみに、料理の作り方とかでたらめです。私が料理下手なんで。すいません。