退屈な午後には


「あ゛ーヒマだー」
「つまんな〜い」
リビングのソファーを一つずつ占領したマリージとペカチュウが唸った。
「2人とも、お仕事はどうしたんですか?」
エプロンにアイロンをかけながら夢花が訊くと、面倒くさそうに答えが返ってきた。
「検算を5回もやって、それでも1時間とかからんかったぞ」
「今は倉庫が一杯だから、何も作らないでいいし」
「はあ」
「そういう夢花はどうなん? 掃除せんでええの?」
少し離れたテーブルを占領しているレーツェルが話に入ってきた。
「ええ。今日は皆さんいませんから、さっき終わっちゃいました」
アイロンのスイッチを切って、夢花は少しつまらなさそうに答えた。……正確に言えばガノンとミュウツーが留守番をしているのだが、彼らは食事時以外に滅多に姿を見せないためいないも同然である。
「せやったら怜もヒマしとるんか」
「ええ。7人分で済みますから」
読んでいる本から目を離さずに怜がうなずいた。
「レーツェルは何してんの?」
「んー、ちょっとロボット制作」
テーブルに様々な部品や工具を積み上げたレーツェルは、手にしていた50センチくらいの小さなロボットをペカチュウに見せた。
「何それ?」
「歌って踊れるスーパーロボット『ロボ太君3号』や。ちなみにもっと気の利いた名称募集中」
キュッと最後のネジを締めて、レーツェルはそれを床の上に置いた。
「歌うんですか?」
「まあ、MDプレーヤーを内蔵させとるだけなんやけどね」
苦笑しながらレーツェルが胸のボタンを押すと、口のあたりにあるスピーカーから『SYNCHRONIZED LOVE』が流れ出し、それに合わせてウィンウィンと手足を動かして踊り出した。
「へぇ〜、上手いですね」
「すごいな、コレ」
4人が感心してロボ太君を見ると、レーツェルは何故かため息をついて首を振った。
「いや、これでも今イチや。スタビライザと関節部分のシャフトがやかましいし、胴体が箱型やから全体的に動きが固く見えるし、何より首が動かせへんのや。メモリも一曲分しかあらへんし、でも重量バランスから補助メモリも入れられんし……」
「何だか喉が渇きますねー。お茶でも淹れます?」
「ああ、僕がやりましょう」
「あ、オレはアイスティー」
「……ってちょっと! ナニ人の事無視してんの!」
「だって、そんな難しいお話は分からないですし〜」
夢花が言うと、ペカチュウとマリージ、怜もうなずいた。
「あーもうこれやから素人は……ええか、そもそもロボットゆうんは……」
「ペカチュウさんはアイスティーと。お二人は?」
「私もアイスティーで」
「オレは何か温かいのがいいな」
「だから人の話聞けってー!」
「レーツェルさんは何飲みます?」
「あ、私はスポーツドリンク……って、そうじゃなくって!」
「……レーツェルさん」
ヒートアップするレーツェルの肩に、怜がポンと手を置いた。
「僕達には理解出来ませんし、これ以上語っても無駄ですよ」
――ビシッと音を立てそうな勢いで、レーツェルが凍り付いた。
「……怜、トドメ刺したな……」
「ちょっとレーツェルさんが可哀想です」
「レーツェルも、アレさえなけりゃいい奴なんだけどなぁ」
冷気をよけるように固まって、3人はそう囁きあったのだった。



「ねえレーツェルさん、どうしてレーツェルさんはここで働こうって思ったんですか?」
怜に飲み物を淹れてもらった後、ロボ太君相手にたそがれるレーツェルを流石に放っておけなくなった夢花が話しかけた。
「ん? どして?」
「いえ、あれだけロボットに詳しいのに、どうしてロボットを作るお仕事をしてないのかなって思ったので……」
「そういう夢花は?」
「私ですか?」
話を逆にふられた事を全く気にせず、夢花はおっとりと答えた。
「私、前からお掃除の仕事をしてたんですけど、大抵いつも『君はもういいよ』って遠慮されてしまって……私はあんまり気にしないんですけどねぇ」
(……それ、遠慮と違うって)
その場の全員が心の中でツッコミを入れた。
「……まあ、夢花くらいのんびりした性格やないと、ここの掃除は出来ひんやろなぁ」
レーツェルは当たり障りのないコメントでお茶を濁した。
「で、レーツェルさんは?」
「私ね。まぁ、そりゃそっちの道も考えへんかったって言ったら嘘になるな」
まだ踊っていたロボ太君のスイッチを切って、レーツェルはその頭をなでてやった。 「でもな、そういう仕事に就いたからって、ロボ太君みたいなロボットを作らせてもらえるとは限らへんし、それに昔からレースのマシンも好きやったからなぁ。ここで整備士の仕事やらないかって言われた時はすごく嬉しかった」
最近はどちらかというと家電製品の修理の仕事が多いのだが。
「そうなんですかぁ。……ペカチュウさん達はどうなんですか?」
「オレ? バイト先を転々としてたらここにたどり着いたって感じかな。で、昔やってたバイトを活かして武器の制作をしてる訳」
「……どんなバイトしてたんあんた?」
レーツェルが訊ねると、あっさり答えが返ってきた。
「武器工場のバイトとか、映画のエキストラとか、バーテンとか、イベントの整理係とか、とにかく色々やったよ」
「無節操やな……」
マトモなものから突っ込み所満載のものまで。
「で、マリージは?」
「うん、ここの仕事面白そうだったから。結構賑やかだし」
「……あれは『賑やか』って言うかなぁ……?」
世間様一般では、爆発音や破壊音を『賑やか』とは言わない。
「でも一番分かりやすい理由ですよね。怜さんは?」
「僕…ですか?」
怜は本から顔を上げた。
「そうですね……普段はそうでもないんですけど、僕って落ち込む時は相当落ち込むんですよ」
「……ああ」
確か、皿を一枚割っただけで3日間も部屋に閉じこもったりしていた。
「でも、ここの皆さんは僕が立ち直るまで待っててくれるんですよね。閉じこもってたら部屋の前に食事を置いておいてくれるし」
この屋敷の大抵の住人は、他人の言動に関して非常にリベラルである。
「おかげで気楽に働けますよ。仕事はハードですけど」
ポリッと煎餅をかじって、怜はそう締めくくった。
「……っておい怜! どっから生えたその煎餅は!」
「これですか? さっきからずっとありましたよ」
食べますか、と怜は皿を差し出した。
「あ、私も食べたいわ」
「オレも」
「私も」
「ええ、どうぞ」
4人は一枚ずつ煎餅を取った。
「……一枚余りますね」
「だな」
4人はじっとその最後の一枚を見つめた。
「……僕はもういいですから、4人でどうぞ」
争いのにおいをかぎ取った怜は皿をテーブルに置いて避難した。
「ここは年長者を立てよう」
「私は一番ハードな仕事やっとるんやけどな」
「あら、私は一日中働いてますよ」
「お菓子なんだし、一番若い人がもらうのがベストだろ?」
4人の静かな争いは、スマブラメンバーが帰ってくるまで続いたのだった。





後書き



書くかもリストより、従業員会話です。
つぅかギャグと違うしこれ(汗)

皆さんの雇用のきっかけは私の捏造です(爆)
レーツェルさん以外は従業員募集のポスターを見て、レーツェルさんはファルコンにスカウトされてというイメージがあるんですよ。
まぁ、意見ありましたらいつでもどうぞ。

ちなみに、作中の『SYNCHRONIZED LOVE』ですが……昔の武○士のCMの曲って言ったら分かりますかね。