パッションフレイム
……その人を見かけたのは、本当に偶然だった。
敵に取り囲まれても不敵な笑みを浮かべ、手にした大剣で次々になぎ倒していく。
剣のまとう炎に照らし出されたその凛々しい横顔に、確かに私は見とれていた。
少しだけドキドキしながら、シュラはチャイムを鳴らした。
「……はい、どちら様でしょうか」
すぐにドアが開き、ドレスを着た綺麗な女性が出てきた。
「えっと、シュラです。従業員募集のポスターを見てきました」
「あら、そうですか。ではこちらにどうぞ」
屋敷の中に通され、どこかに案内される。廊下の窓からふと外を見ると、2人の剣士が稽古をしているところだった。
「……あ!」
あの人だ!
「あぁ、あの2人ですか」
窓に張り付いたシュラに、女性が声をかける。
「緑色の服を着ているのがリンクで、赤毛の方がロイです。2人とも私達の仲間です」
「へぇ……」
「さ、こちらです」
女性にうながされて歩き出しながら、シュラはロイという名前をしっかりと心のメモに書き付けた。
「……じゃあ、あなたは医務室でドクターの補佐をしてもらうってことでいいかしら。今日からいける?」
ドレスを着た、最初に案内してくれた人とは別の女性が笑顔でそう言った。彼女はピーチで、案内してくれた人はゼルダというそうだ。
「はい」
「ありがとう、助かるわ。じゃ、医務室はこっちよ」
ピーチに案内されて、医務室に向かう。白衣を着たおじさんが、カルテを見ながらコーヒーを飲んでいた。
「おや、どうしたんだピーチ姫」
「うん、新しくドクターの助手が来たから紹介しようと思って。シュラっていう子よ」
「よろしくお願いします」
シュラはぺこりと頭を下げた。
「巫女さんか何かかい? 治療魔法が使えるんならとても嬉しいけど」
「あ、魔法は使えないんですけど、治療の心得はあります」
「それでも十分さ。いや、歓迎するよ。うちはバカが多くてねえ」
首を傾げるシュラに、ドクターは苦笑しながら続けた。
「修行や訓練という名目で、遊んでる最中に、ケンカして、乱闘して、何かの事故で、運悪く――とにかく怪我人が毎日大発生状態なのさ。全く、一日くらい大人しく出来んのかね」
確かに、カルテの量はやたら多い。
「ドクター、ちょっと治療をお願いします」
と、さっき廊下の窓から見た緑色の服の剣士が入ってきた。あの人も一緒だ。
「ほら、いい実例が来ただろう? 君はロイを頼む」
道具をシュラに渡し、ドクターはリンクの治療にあたった。
「あ、あの、怪我はどこですか?」
「左腕」
差し出された左腕には、結構痛そうにざっくり切れていた。シュラは手早く長い白銀の髪をくくって袖を捲くり、傷の状態を見た。そこまで深くないし、綺麗に切れているのであまり問題はないだろう。
「そういや、君は? 初めて会うけど」
「あの、今日からここで働くことになったシュラです」
「へぇ。俺はロイ。これからよろしくな」
「はいっ、よろしくお願いします!」
(きゃー、ロイ様が笑ってくれた!)
内心舞い上がりながらも、シュラはしっかりとした手つきで傷を消毒して包帯を巻く。
「やれやれ、どうやら一目惚れのようだぞ」
「あれ、お米の品種変えたんですか?」
「……あのなぁ、リンク」
隣のこの馬鹿馬鹿しい会話は、幸いにも2人には聞こえなかった。
後書き
遅れてごめんなさい、カンカン9さんリクエストの100000のキリリクです。
ロイとの絡み微妙だなー……。
これでロイも鈍いことが判明。ハートマーク飛ばしながら治療してる女の子見て、気付いたのがドクター1人って……。