俺たちRバスターズ


「よし、終わりっ」
帳簿をまとめて、マリージはぐっと背伸びをした。
「これで今日の仕事は終わり! さて、何しようか……」
暇な人を探しに部屋を出る。
「おーい! 誰か手の空いてるやつはいないか!?」
と、一階からマリオの声がした。
「お、何だろ」
手の空いているマリージは、マリオの声のする方へ行った。
「どうかした?」
台所には、マリオとルイージがいた。
「ああ、マリージか。……出来ればスマブラメンバーがよかったんだが……まあ、マリージでも大丈夫だろ。ちょっと手伝ってくれないか?」
「いいけど……一体何を?」
ルイージに手渡されたショートソード(新聞紙製)を見て、マリージは首をかしげた。よく見ると、2人もスリッパや雑誌を手にしている。
「何、大した事じゃない」
「僕らと一緒に戦ってくれれば」
「……誰と?」
「すぐに分かる」



「それっ!」
新聞紙剣を思いっきり叩きつけると、パァンと小気味良い音がした。
「マリージ、外れだっ」
「え? ……あ、そりゃ!」
もう一度振り下ろすと、今度はヒットした。
マリージの一撃でKOされ、床に転がってもがいているのは――そう、ゴキブリだ。
「当たった!」
「よし、逃がすなよ!」
マリオのスリッパがとどめの一撃と閃き、すかさずルイージがちりとりに放り込んだ。
「やった!」
「まずは一匹だな!」
……そう、彼らが戦っているのはゴキブリである。
殺虫剤使えよ、というツッコミが聞こえてきそうだが、生憎殺虫剤を切らしていたのだ。そのため、古典的な手段――つまり物理的に退治しているのである。
「台所に逃げたのは三匹だから、あと二匹だ」
「他の所のは?」
「殺虫剤撒いたから大丈夫」
3方向に分かれて、残りの二匹を探す。ドアも窓も全て封鎖し、下水口も固定してある。逃げ場はない。
「……だから、後は探すだけなんだけどなぁ……」
この台所は広い。とにかく広い。ここで二匹のゴキブリを探すのは、池に落とした指輪を見つけるのと同じくらい難しい。
しかしここで見逃す訳にはいかない。もしこいつらが食事中に出現したら――!
女性陣がパニックに陥り、それが子供達に伝染し、パニックになった者もそうでない者も、皆がゴキブリの排除に全力を尽くすのだ、そう、手加減なしに!
そんな事になれば冗談抜きで屋敷が全壊しかねない。スマブラ屋敷の平和と衛生のためにも、ゴキブリは滅ぼし尽くさねばならぬ凶敵なのだ!(力説)
「……いたっ!」
ルイージが、棚の奥にこそこそと逃げようとしていたゴキブリを発見する。
「あ、その棚は……」
「え?」
マリージの忠告も遅く、ゴキブリを倒すべく上体を棚に入れたルイージは。
「うぎゃあああっ!?」
ドカドカドカと上から降ってくる包丁に慌てて身を引いた。
「……上に包丁あるから気をつけて……と言おうとしたんだけど……」
「遅いよ!」
ちょっぴり涙目になってルイージが突っ込んだ。
今の騒ぎでゴキブリを見失ってしまった。包丁を元に戻して、3人はゴキブリ探しを再開した。
鍋を1つ1つ持ち上げ、調味料のビンをかき分け、僅かな隙間も見逃さないその様子は、さながら砂漠で宝石を探す冒険者のようだった。……探す対象はそんな綺麗なものではないが。
「……だめだ、こんな方法じゃ見つからない」
ついにマリオがため息をついた。
「どうするんだ?」
「ホウ酸団子でも作るか」
マリオは靴を脱いで調理台に登り、上にある鍵付きの戸棚の鍵を開けた。中にズラッと並んでいたのは、大小様々なドクロマークラベルの薬ビン!
「何でそんなもんが台所にあるんだー!?」
「ああ、意外にここが一番安全なんだ。誰もここで暴れないし、リンクがちゃんと管理してるし、侵入者は大抵食べ物目当てだからこんなとこ見ないし」
「いやそうかもしれないけど……」
毒物の真下で料理されていると思うとちょっと食欲が失せる。
「大丈夫。この事は俺とルイージとピーチ姫とリンクしか知らないから」
「……慰めにもならないよ、それ……」
そんなこんなで作り上げたホウ酸団子を、床にいくつか転がした。3人は靴を持って調理台に登り、じっと様子を窺う。
いい加減待つのに飽きてきた頃、かすかな足音と共に二匹が連れ立ってやって来た。
(来たっ)
(しーっ、静かに)
しばらく団子を調べていたが、やがて一匹が団子を食べ始めた。
(よし!)
(ほら、もう一匹も食べるんだ)
が、もう一匹は様子を窺うように触角を動かすばかりで動こうとしない。そのうち団子を食べた方が痙攣を起こし始めた。食べていない方はピクッと身構えた。
マリオが上からスリッパで攻撃したが、間一髪で逃げられる。が、ルイージとマリージが退路を塞ぐように調理台から飛び降りた。
「これでもう逃げ場はないな」
しかし彼らは忘れていた。奴が昆虫である事、1つだけ封鎖できない抜け道がある事を。
そしてそのミスを嘲笑うかのように、最後の一匹はMAXエクスプロージョンより強烈なあの攻撃に出た!
すなわち――顔面めがけて飛んでくるぜ攻撃っ!
「ぎゃーっ!」
ルイージは慌ててしゃがみ込み、それをよけた。ゴキブリは一度壁に止まって、あたりをでたらめに飛び回り始めた。
「うわーっ、こっち来んなーっ!」
「ぎゃーっ!」
たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を見せ始めた台所。
……冷静に考えれば、別にゴキブリは毒を持っている訳でも噛みついてくる訳でもない。だからそこまで大袈裟によける必要はないのだろうが……理論的思考と生理的嫌悪はまた別問題で。
「くっ……このままだと負けるっ」
いや何にだよ。
とにかく、ゴキブリごときにしてやられては末代までの恥だ。スリッパや新聞紙剣で反撃を試みるも、でたらめに飛び回る小さな的にはなかなか当たらない。
「うわっ」
と、マリージがバランスを崩してシンクに倒れ込み、新聞紙剣を取り落としてしまった。それを見逃さず、奴がマリージの顔面めがけて飛びかかる!
「マリージ!」
マリオとルイージが叫ぶ。
マリージはとっさに、手に触れたものをゴキブリに向けた!

ぶちゅうっ。

間の抜けた音と共に、マリージの手にしたボトルから飛び出た液体は見事ゴキブリに命中した。ゴキブリはマリージのすぐ側に落ち、ジタバタともがく。あたりに、爽やかなフローラルの香りが漂った。
「こ、これは……」
マリージは愕然と手にしたボトルを見た。
そう、マリージの命を救いスマブラ屋敷の衛生と平和を守ったそれは――燦然と輝く食器洗い洗剤だ!
ゴキブリはしばらくもがいていたが、やがて動かなくなった。
「マリージ!」
「無事だったか!」
マリオとルイージが勇者の元へ駆け寄った。
「何とか……」
マリージは汗を拭った。
「これでここも安泰だな!」
3人はがっしと手を握り合った。そこには、共に戦った戦友のみが共有できる熱く激しい感情があった。
「よし、凱旋だ!」





後書き



マリージさん雇用記念です。
つぅかゴキブリ絡ませんなよ。あんまりはじけてないし……すみません、恨むのは年中ゴキブリ見かけるせいで吹っ飛んだ頭のネジにして下さい(爆)



ちなみに、タイトルのRはroach、つまりゴキブリのことです。