Sanctuary


「うあっ!」
ダンッという派手な音と共に、少年の小さな体が壁に叩きつけられる。
「う、ぐっ……」
“……この程度か…?”
床にくずおれた少年の前に、ふわりと音もなく白い足が下ろされた。
「…っ! まだっ!」
少年は体を起こし、その足の持ち主――白き異形を鋭く睨みつけ身構えた。
“……その意気や良し”
それは少年の視線を真っ向から受け止めた。氷の刃のような紫の瞳が赤く光った途端、全身がその光に溶けて消えていく気がして、少年はその感覚に必死で耐えて目の前の相手を睨み続けた。
「…………っ」
しかし体は無情にも消え行き、最後まであった睨みつける目の感覚を失った時、少年はぬるま湯に浸るような安らぎと微睡みを覚えた。
“未熟者”
その言葉と腹にくる重い衝撃と全身に走る痛みが、いつも少年を偽りの安寧から現実へと引き戻してくれる。
“……何度云えば分かる。体の感覚は切り捨てろ。心だけは何にも侵されないという強い信念を持て”
体を持って生まれた以上、それを切り捨てる事が非常に困難であることくらいお互い知っている。しかし、両者のプライドはその事実に妥協する事を許しはしなかった。
「……もう一度!」
何度も叩きつけられてボロボロな中、唯一強い光を失わない少年の黒瞳を見据え、それが『怪物』と呼ばれるようになった所以の1つである、他者を支配出来る程に強烈な催眠術をかける。その侵略に晒され、少年の意志の光は段々小さくなっていく。
“未熟者”
光が完全に消える寸前、それは瞳を閉じて長い尾で少年を張り飛ばした。
“……お前の矜持はその程度か。お前の信念はその程度か。……心の力を使うなら、何を失おうとも心だけは明け渡すな!”
「……っ!」
少年は上体を起こしてきっとそれを睨み――ふつりと糸が切れたように倒れ伏した。
“……今日はこれで仕舞だ”
それはそっと少年に手を翳した。と、触れてもいないのに少年の体がふわりと宙に浮かび上がる。
転瞬、それまでの殺風景な部屋から少し散らかった部屋へと周囲の風景が変わる。……否、2人が一瞬で移動したのだ。
楽な格好にさせた少年をベッドに寝かせる。
“お休み。良い夢を……”
少年の眠りを妨げないように、それは静かに自分の領域へと帰った。





後書き



書くかもリストにあった、ネスとミュウツーの特訓です。
突発的にSSが書きたくなって、SS用のネタを探したのですが、これくらいしか見つからなくて……他のだと絶対長くなりそうで……