銀の鋏と金の糸


帽子を取ると、サラサラと衣擦れのような音を立てて、綺麗な金色の長い髪が流れ落ちた。
「かなり伸びてるわね」
……もしかしたら私の髪より長いかもしれない。
「最近切ってなかったからな……」
「これのどこが『最近切ってなかった』のかしら?」
明らかに数年単位で放っておかれたに違いない長さの髪は、当人の性格そのもののように真っ直ぐで柔らかくてとても綺麗で。ちょっと切るのがもったいない気もする。
「どれくらいの長さに切ろうかしら……?」
「……好きに決めていいけど、毛先はちゃんと揃えてくれよ?」
何だか不安そうにリンクが言う。
「大丈夫よ。任せて」
リンクは大丈夫かなぁなどと呟いていたけれど、私に任せることに決めたらしく席を立つことはなかった。
「……あんまり短すぎるのも変だし……肩に触れるくらいでいいかしら」
「ああ、それでいいよ」
「分かったわ」
長い金糸を櫛削る。大した手入れもしていないだろうに、櫛通りも手触りもいい髪。……ちょっと羨ましい。
「さて、このくらいの長さに切りますか」
大体の見当をつけて、切る部分の下をリボンで結んで固定する。毛先に近い部分も結んで、左手でそのリボンを持つ。
かなりもったいない気がするけれど、心を決めて鋏をあてがい、一気に切る。

ジョキンッ。

「……あら?」
毛先はバラバラ。
「ゼルダ……結んだ所で髪を切ると歪むんだけど……」
リンクがため息混じりに言った。
「なんで教えてくれなかったのよ?」
「知ってると思ったんだよ……」
「……。大丈夫、毛先を揃えればいいんだから」
切り落とした髪の束を傍らのテーブルに置いて、鋏を構え直す。リンクは丸坊主にされないように祈ろうなどと呟いている……私だって、やれば出来るんだから。
櫛を通して切れた髪を落として、長い両端の髪から鋏を入れる。一番短い髪はちょうど肩に触れるか触れないかの長さなので、そこに揃えてしまえばいい。
短く切られた金糸が、パラパラとリンクの肩にかけた白い布に降りかかる。こうやって見ると分かるけれど、リンクの髪は手触りこそ柔らかいものの髪質自体はかなり硬い。三つ編みにした程度では跡すらつかない。
リンクは少し不安そうにしているけれど、決して振り返ろうとはせずに前を向いている。私が髪をいじっている間は、彼は動かないでいてくれる。
「……どう?」
「もう少しよ」
ここからが少し難しい。切りすぎるとやり直しになってしまい、ずるずると切りすぎて短くなってしまうかもしれない。
櫛の歯を使って毛先を揃えながら、慎重に鋏を入れる。
「……うん、こんなものね」
少し離れてチェックして、満足げに私が言うと、リンクは襟足に手を入れて髪の長さを確認した。
「う〜ん、軽くなった気がする」
「随分さっぱりしたわよ」
最後にもう一度櫛を入れて、後ろはこれでおしまい。
「じゃあ、次は前髪ね」
「……前髪くらい自分で出来るのに」
「いいじゃない。ほら、目を閉じて」
私が前に回り込んで前髪に櫛を通すと、リンクは苦笑して大人しく目を閉じた。
リンクが言った通り、前髪はちゃんと目に入らないように整えてある。私がやることは少ない。それでも、櫛で毛先を揃えて細かい部分を切りそろえる。目を閉じたリンクの端正な顔が間近くなって、思わず顔が緩む。
「……終わったわ」
鋏と櫛をテーブルに置いて、声をかける。
「ああ、ありがとう」
私が手渡した鏡をのぞいて、首を傾げたり横を向いてみたりする。
「……よかったぁ、丸坊主にされなく……痛い痛い!」
ムッとして耳を引っ張ってやると、リンクは手足をバタバタさせてちょっと笑える仕草をした。
「ひどいやゼルダ、痛かったぞ今の」
本当に痛かったらしく、赤くなった耳を押さえて目尻に涙を浮かべる。
「リンクが悪いのよ。私のこと信用しないから」
つんと顔を背けて言いがかりに近いことを言ってやると、リンクは耳をさすりながら弁明した。
「ごめんごめん、でもゼルダって意外と不器用だからさ」
……う。言い返せない。
「うん、ありがとうゼルダ。おかげでさっぱりしたよ」
立ち上がって髪の切れ端を払って、リンクはぐーっと背伸びをした。お世辞にも大人しいとは言えない彼はじっとしているのは苦手だ、多分私が髪をいじっている間は我慢していてくれたのだろう。
「ふふ、結構似合ってるでしょう」
「そりゃあ、ゼルダが切ったんだし。ゼルダが似合うと思うような髪型になってるだろうな」
リンクは笑った。
「あ〜、何だか思いっきり運動したい気分だ! マルスさん達誘って乱闘しよう。たまにはチーム戦でさ」
「チーム分けは?」
「もちろん、俺とゼルダ、マルスさんとロイさん。戦力としては互角だね」
「互角? そんなわけないでしょう」
ん? とリンクは首を傾げる。
「リンクがいてくれるなら、私は無敵よ」
私が自信満々にそう断言すると、リンクはしばらくきょとんとしてからふっと笑った。
「ああ、そうだな」
「リンクは2人を呼んできてくれる? 私はステージを押さえるから」
「仰せのままに、姫」
ひょいと敬礼をして、リンクは帽子をかぶって2人を探しに駆け出した。その背中を見送って、私は残された金の房を手に取った。
「……やっぱり、捨てるのはもったいないわよね」
見た目よりも重い髪の束を持ち上げる。
「さて、ステージを押さえに行かなくては」
その場を片付けて、私も歩き出した。



いつかまたあなたの髪を切る時に、残しておいたこの髪を見て、あなたは何を思うのでしょうね?





後書き



散髪……私は数年単位で切ってないので縁がないですな。
そういや昔30cmも切った時、親戚一同、友人一同、誰も気付かなかったなぁ……あ、いや、1人だけ気付いてくれたか。
しかしあれは悲しかった。私は中途半端な長さになった髪を悲しんで鬱陶しいと思いながらずっといじってたのに。

さて、リアル長髪な私からの長髪講座〜(何
まず、髪の毛は意外に重いです。私はこの重さに慣れてますが、それでも誰かが髪を持ち上げた時に頭が軽くなるのを感じます。
だから、そよ風になびくなんてなぁフィクションですよ。風の強さで数は変わりますが、数束に分かれてなびきます。アニメみたいになびかせる風速だと、多分立っていられないはず。
次に、なかなか乾きません。私はよくタオルで滴らない程度に水気をとってから寝ますが(爆)、朝になっても乾いてない時があります。ドライヤー? んなもん一時間以上かかるわい。
ちなみに、一番邪魔じゃない長さは腰くらいではないかと。背中だとうつむいた時に顔にかかって邪魔ですし、膝あたりになるとトイレの時に困ります(笑)
嘘じゃないぞ。
次に、掃除が大変です。2、3日しないだけで床じゅう髪の毛だらけ、だからここ数ヶ月掃除してない私の部屋の床やゴミ箱は髪の毛だらけです(爆)
よくお風呂の排水溝も詰まるし。



……何か長々と髪の毛について語ってるな。
これ後書き?
やっぱり髪の毛に関して、別館でコラム書こうかな。





(……作品解説はどこ行った?)