Shooting Star


スマブラ屋敷は、子供達が寝るまで騒がしい。
「リンク、ブーメラン貸して〜」
「いや、あれは危ない……あ、こら、返しなさい!」
リンクは奪われたブーメランを取り返そうとするが、カービィもさるもの、ちょこまかとリンクによじ登ったり降りたりしてその手をかわす。
「それ〜!」
「ふんっ」
子供リンクが投げつけたクッションをネスがバットで打ち返すと、そのクッションがルイージに当たった。
「うわっ!?」
「てめえら、静かにしろ!」
ファルコが怒鳴る。
「まあ、いいではないか」
クッパはルイージに当たったクッションを投げ返した。
「ロイ、一緒に枕投げしよう! クッションだけど」
「いいよ」
「おい!」
騒ぎが嫌なら、ガノンやミュウツーのように部屋に帰ればいいものを。
ファルコンはため息をついて、リビングを後にした。



部屋に戻る途中、窓の1つが開いているのを見かけた。
「誰だよ……」
閉めようと近づいてみると、足跡が窓枠についている。
「ん?」
中から外に向かうその足跡はさして大きくはない。ファルコンよりも小柄だ。
窓から顔を出してみると、ちょうど出窓などの突き出した部分をつたって屋根の上に登れるようになっていた。
「誰だ? こんな所に登るやつ」
登るだけならスマブラメンバーに出来ない人はいないだろう。が、やりそうな子供達は皆リビングで遊んでいるし、屋根の上には何もない。
誰なのか気になったファルコンは、後を追ってみる事にした。
フットワークも軽く屋根に躍り出る。念のため足音は立てないようにして、ファルコンは足跡の主を探した。
「…ん?」
程なく、屋根の端に人影を見つける。
今夜は月がない。あえかな星明かりに、太陽の光のような金髪は微かに煌めいた。
「……サムス?」
「あら、ファルコン」
サムスは振り返った。髪も下ろし、タンクトップとカーゴパンツというラフな格好だ。
「何してるんだ、こんな所で」
「ちょっとね、星を見てたの」
座らない? と隣を指して、サムスは微笑んだ。
「私は、ほとんど毎日あの宇宙で生活してるわ」
ファルコンが隣に座ってから、サムスは話し出した。
「だから星に囲まれた生活よ。でもね、綺麗だとか、眺めてたいって思った事はなかった」
「確かに」
同じく宇宙で暮らし、星を間近に見ているファルコンも頷く。
何しろ星しかない。美人は3日で飽きると言うが、この綺麗な星空がどうでもいい風景の1つになるまでさしたる時間はかからなかった。
「でもね。ここに来てからその話をすると、みんな羨ましいって言うのよね」
カービィやフォックス、ファルコといった宇宙メンバーは流石にそうは言わなかったが、星を見上げるばかりのメンバーは皆そう言って目を輝かせた。
「マルスなんか、『だからサムスさんは美人なんですね』とか言ってたのよ?」
「マジかよ!?」
あまりのボケに、思わず2人は笑い出した。
「それでね、もしかしたら星って綺麗なんじゃないかって思ったのよ。私が気付かなかっただけで」
「ふんふん」
「それで見上げているんだけど……何でかしらね、こうして見ると綺麗だわ」
サムスは星空を見上げる。
「そうか」
「何でかしらね。私、もしかしたらものすごく損してたのかなって思えてきて。こんな綺麗なものに囲まれてたのにさ」
「いや……もしまた宇宙に戻っても、綺麗とは思えないはずだ」
「何で?」
「誰も聞いてくれやしないだろ。星空は綺麗だって」
ファルコンは苦笑した。
「最初ここの屋敷に来た時、ピーチ姫とゼルダ姫は大して驚いてなかっただろ? マルスとロイも、そうだった。だから、生まれ育ってずっと見てきたものは『あって当たり前』、感覚が鈍くなるんだ」
王侯貴族である彼らは、このような城や館に住んでいるのだろう。
「じゃあ、何で今は綺麗に思えるのよ」
「そりゃ、綺麗だって言ってくれる人がいるからだろ」
サムスは少し驚いた顔をしたが、やがてクスリと笑った。
「そうね……一緒に見てくれる人がいるものね」
一緒に見てくれるわよねと視線で問いかけるサムス。
ファルコンはくいっと口角を持ち上げた。
「いいぜ。星のお姫様」
2人並んで、星空を見上げる。瞬いたり、雲に覆われたりするのも、宇宙から見るのとはまた違う。
「あ、流れ星」
サムスが流れる星を指差した。
「子供達が、流れ星にお願いすると叶うって言ってたけど、本当かしら」
「消えるまでに3回唱えるって奴だろ? 知らないな」
たかが流れ星程度に本気で願いをかける姿は微笑ましいものだったが、叶うとは思えなかった。
「でもゼルダまでやってたのよ。ピーチも信じてるみたいだし」
「じゃあ、やってみりゃいいじゃないか。叶わなかったって損はしないし」
「そうね」
再びの流れ星を待って、2人は星空を眺めた。サムスが流れ星を探してキョロキョロするのが何となく可愛らしくて、ファルコンは小さく笑った。
「……あ!」
再び、流れ星が流れた。
「また星空を綺麗だと思えますように、また星空を綺麗だと思えますように、また星空を綺麗だと思えますように」
早口で3回唱える。
「……どう?」
「多分成功だ」
「そっか」
ニッとサムスは笑った。
「ところでファルコンは何かお願いした?」
「まさか」
「つまんないわね〜」
「いいだろ、別に」
「ま、折角だから、しばらく付き合ってね。星空が綺麗だし」



――願い、言わなかったわけじゃないさ。
一緒に星を眺めながら、ファルコンは1人呟く。
「何か言った?」
「いや」
「そう〜?」
サムスはしばらく疑わしげにしていたが、やがて空に視線を戻した。



――いつかまた、2人でこうして星空を眺められますように。
叶えてくれよ、流れ星?





後書き



アンケートより、ファルサムほのぼのです。
今回はうまくいったんじゃないですかね。
何だか片思い風味だったけど(苦笑)ファルコン頑張れ〜。





オマケ



「誰よ、鍵かけたの! 帰れないじゃない!」
「他の道は……ないのか」
「ないわよ。玄関閉まってるし」
「呼んでも聞こえないだろうな……」



こうして2人は、星空の下で一晩過ごしましたとさ。





end♪