洞窟


5人はデデデ城に乗り込み、隠し部屋を見つけた。扉を開けて乗り込むと、部屋は天井が崩壊してしまっていた。
「……ここに逃げ込んだのは確かなんだが……」
隠し部屋の入り口を見つけたリンクが首をかしげた。
「あ、あそこ!」
ピットが壁の一部を指差す。そこには割と大きな穴が開けられていて、どこかの洞窟に繋がっていた。
「ここから逃げたか……」
「一体どこまで逃げる気だ?」
瓦礫の山を迂回し、5人は穴の前に立つ。……その瓦礫の下にデデデとフィギュアがあるのだが、全く気付く様子もない。
彼らは、フィギュアを取り戻すべく穴の中に飛び込んだ。



そこは、トラップだらけの洞窟だった。
「うわあああっ!」
入って早々に、大岩がゴロゴロと転がってきた。5人は必死で走り、邪魔するクリボーやハンマーブロスを蹴散らし、何とか安全圏まで逃げ込んだ。
……と思いきや、地響きと共に天井が迫ってきた。
「ヨッシー!」
逃げる先では再びクリボー達に襲われ――といっても、全力で走りながら踏みつけていったため誰も気付いていなかったが――、同じような罠に見舞われ、ほとんど立ち止まる余裕もなくひたすら洞窟を駆け抜けた。
「……はぁ、はぁ……」
ようやく逃げ込んだ横穴で、5人は一旦息を整えた。今まで5人がいた場所には、重い岩の天井がのしかかっている。あれにはさまれてしまえば、比較的頑丈なフィギュアといえども一瞬でバラバラになってしまいかねない。
「何ていうか……悪意満点な洞窟だな……」
リンクが息も絶え絶えに呟き、低く地響きを立てる床に両手と両膝をついた。一番重装備な彼は、そのために最も足が遅く、かなりギリギリな場面に見舞われていた。
「あぁ……しかし、妙だな……」
「妙って、どういうことですか?」
首をかしげているマリオに、ピットが問いかけた。
「この洞窟にいて邪魔してくる敵だ。あれは、クッパ軍団の奴らだった」
「うん。デデデにはあんな手下はいないよ」
カービィもうなずく。デデデの部下ならワドルディやワドルドゥ、ゴルドーといった連中だ。
「ということは……クッパとあいつが手を結んでるってことか」
「どーかなぁ? デデデ、いいヤツじゃないけど悪人じゃないよ?」
カービィが首を傾げるが、誰もその言葉は聞いていなかった。
「……ピット、カービィ、上の方に横に抜けられる穴がないかどうか偵察してきてくれるか?」
と、今まで無言だったリンクが立ち上がった。
「どして?」
「あぁ……天井が低くなってるの、気付かないか?」
リンクの言葉に上を見ると、確かに、さっきより天井が近くなっている。
「でも、天井は動いてないよ」
「ああ、天井はな。……床がせり上がってる」
「……えええええっ!」
ずっと聞こえている地響きは、これが原因だったのだ。ピットとカービィは慌てて逃げ道を探しに行った。



「あー……何てところだ」
何とかせり上がる床から逃げ出し、5人は改めて一息ついた。
「でもよく気付いたよねー、リンク」
「いや、気付かないのもどうかと……一応、よくダンジョンに行ってるわけだし、ああいう罠や仕掛けはよく見るな」
職業柄(?)一人旅の多い勇者は、こういった仕掛けにも1人で挑み続けてきている。ここにいる5人の中では最も罠や仕掛けに対する経験があるだろう。
「ここはリンクを先頭にして行ったほうがいいかな。頼めるか?」
「ああ」
マリオの提案で、5人は慎重に先に進んだ。
その先にも毒霧の仕掛けや吹き出す炎、沈む足場などがあったが、リンクは的確にそれらの仕掛けを乗り越えていった。……正確には、沈む足場に引っかかったのはジャンプ力のないリンクだけだったのだが、彼は即座にクローショットを用いて安定した足場まで移動した。
「……よし、出口だ!」
やがて、洞窟の出口が見えてきた。
そこは、やはりどこかの岩山の上だった。少し離れたところに、動く影がある。……クッパだ!
マリオは全力で走り、リンクに仕掛けたのと同じ技――メテオナックルをクッパの背中に繰り出した。
「フン!」
が、クッパは持っていたゼルダのフィギュアを盾にするように掲げた。
「!」
慌ててマリオは攻撃の軌道を変える。その隙にクッパは再び逃げ出すが、ぐにゃりと曲がりながら飛んできたパルテナアローを慌てて回避する。光の矢は、ゼルダの肩についていたブローチをかすめて弾き飛ばすに留まった。
運悪く崖っぷちにいたクッパはその回避でバランスを崩し、崖に真っ逆さまに落ちる。……が、すぐに浮かんできた。どうやって浮かんでいるのか微妙に疑問な乗り物に乗っている。
「ガッハッハ、我輩が何の策もなくこんな行き止まりに逃げたと思っているのか!」
あらかじめスタンバイさせていたらしいクッパクラウンに乗り込んだクッパは、そのまま上空で待機しているハルバードに向かう。……撃墜すれば、まず間違いなくこの深い谷の底に落ちる。クッパはともかく、既にフィギュア化しているゼルダには危険な高さだ。
「ゼルダ……!」
悔しげに歯噛みするリンク。ヨッシーは、リンクをなだめるように軽く背中を叩いた。
「……あれ?」
と、カービィが地面に光る何かを見つけた。それは、デデデの顔によく似たブローチだった。



デデデ城の前で起動させた亜空間爆弾を眺めて、エインシャント卿は爆弾を守る2体のロボットに小さく声をかけた。
『……スマナイ……』
そろそろいかないと、自分も巻き込まれてしまう。エインシャント卿はその場を立ち去った。残されたロボットは、その背中に小さく頭を下げた。

――デデデ城は、亜空間に飲み込まれた。



突如、モニターの画像が砂嵐に変わった。
「……!?」
何者かが割り込みをかけてきたのだ。ハッとして目を見開くガノンドロフの前で、再びモニターの内容が切り替わった。今度は、亜空間の内部のような奇妙な空間。
『フフフゥァハハハハハハ……!』
笑い声と共に、そこに巨大な右手が浮かび上がった。
――マスターハンド。この世界と全てのフィギュア達の生みの親である。
「……マスターハンド?」
少し待てばクッパも戻ってくるというのに、何故わざわざガノンドロフ1人の時に接触してきたのか。
『まあまあ順調にいっているようだな?』
「あぁ」
『こちらも、ついに例のものが完成したところだ』
「……ほほう」
ガノンドロフは顔をほころばせた。“アレ”なら、一度で全てを終わらせられる。
『だが、奴らに悟られないようにこの空間内で作成したせいで、こちら側に持ってくるのが少々困難だ。どこかに大きく亜空間への入り口を開けなければ』
「今までの場所では駄目なのですか」
『駄目だ。小さすぎる。亜空間爆弾をいくつもまとめて爆発させないと、必要な大きさにはならんな』
「なら、場所は1つしかないでしょう。アレが完成したとなればあそこは不要ですし、いずれ裏切るだろうあの者もまとめて処分できます」
『あぁ、あそこか。……相変わらず、抜け目のない奴だ』
マスターハンドは、びっと指をガノンドロフに突きつけた。
『他のフィギュア達は既に、ハルバードやロボット軍団を敵と認識して追跡している。あいつらをまとめて亜空間内部に引きずり込むのだ。フィギュア化されていれば一番いいが、こちら側に引きずり込めればどうとでも出来る』
「分かりました。必ず、全てのフィギュアを亜空間内部に集めましょう」
『それと、これが本題だ。お前だけにしか話せん重大なことだ……』
マスターハンドの話を聞いて、ガノンドロフは敬礼した。
「分かりました。機会を見て、いずれ」
深々と頭を下げる。マスターハンドに見えない角度で、ガノンドロフはニヤリと笑みを浮かべた。