エインシャント遺跡外部
そのロボットがマスターロボットからの招集命令を受けて起動した時、全身を奇妙な生物に覆われていた。
赤、青、黄、様々な体色で微妙な差異はあるものの、同じ種類の生物とみて間違いないだろう。頭頂部には葉や花などが確認される。恐らく、動物と植物の中間に位置する生物だ。少なくとも、このエインシャント島に生息している生物ではない。
外来種生物は、島の生態系の保護のために規則にのっとって管理されていないものは全て淘汰されなければならない。
ロボットは腕を大きく広げて高速で回転し、その生物達を振り落とした。よほど脆弱だったのだろう、吹き飛ばされて地面に叩きつけられたその生物達はキュウキュウという鳴き声を上げて消滅していった。
……まだ、他にも生体反応がある。
ロボットが反応のある方向にアイカメラを向けると、先ほどの生物達に取り囲まれた、これまた奇妙な生物を発見した。
宇宙服に身をつつんだ、小柄な人物。こちらを確認して、怯えたように後ずさっている。……共有データベースに、対象のデータが入っているようだ。
――ピクミン&オリマー。いつの間にもぐりこんだのだろう。
エインシャント島内にて捕獲対象を発見した旨を緊急回線で皆に知らせる。
その間にもジリジリと後ずさるオリマーの背中を赤いピクミンがつつく。振り向いたオリマーに、ピクミンは何かを差した。
……熱エネルギー源、高速で接近中。
ピクミンが示した方向から、かなりの速度で青いマシンが突っ込んでくる。データベースに照らし合わせると、該当機はすぐにヒットした。
F−ZEROレースマシン、ゼッケン番号07『ブルーファルコン』。時に音速をも超える速度を出すF−ZEROレースマシンだ。
レースマシンであるため非武装だが、あの速度であの質量にぶつかられたら危険だ。が、それは中で操作している人物も同じだ。ロボットは逃げずに向き直った。
ブルーファルコンはどんどん近づいて――止まることなく、コックピットのハッチが開放され中からパイロットが飛び出してきた。
「ファルコン……」
その拳に、炎が宿る。急遽対象のデータを検索し、同時に仲間に情報を送信する。
「パーンチ!」
――キャプテン・ファルコン。一流バウンティハンターにしてF−ZEROトップレーサー。
それが、彼が最期にとらえた情報だった。
踏んだり蹴ったりだ、とオリマーは思った。
うっかりドルフィン号の操作を誤って、見たこともない場所に落っこちてしまった。降りた瞬間に転んだ。ちょっと歩くと巨大ロボット――彼の身長からすればかなり巨大に映る――がピクミンの大半を殺してしまった。
思わず後ずさっていると、どこかで見たような青いマシンがやってきてそのロボットを倒し――その勢いのまま、残っていたピクミン達をひいていった。
スチャ、と華麗に着地しポーズを決めるその人物の周囲に、死んでいったピクミン達の霊魂が色とりどりに空に上っていく。
唯一生き残った赤ピクミンと二人で、呆然とその幻想的で滑稽な光景を眺めていた。
――今日は災難だ。
「やあ! 無事だったかい?」
青いスーツにヘルメットをつけたその男性は、こちらの憂鬱など知りもせず無駄に爽やかに声をかけてきた。
「ええ……おかげさまで、私は」
が、オリマーは不愉快なものに噛み付くほどの気力も若さもなかったので、ささやかな皮肉を口にするにとどめた。
「そうか。それはよかった」
よくない。
「ところで、君の名前をうかがっても? ああ、俺はキャプテン・ファルコン。F−ZEROトップレーサーだ」
「オリマーです。これは、ピクミン。私のよきパートナーです。今はこの一匹しかいませんが」
隣で興味津々といった目で風になびくスカーフを眺めている赤ピクミンを指す。
「ああ、あのロボットにやられたんだな。可哀想に」
「ええ、そうなんです」
ざっと半分ほどは。
「ところで、キャプテン・ファルコン。私はここに不時着してしまったのですが、ここは一体どこなんでしょう」
「……知らないのか?」
そして、ファルコンの簡単な説明を聞いた後、オリマーはがっくりと肩を落とした。
――今日は、本当に災難だ。
「とうっ!」
襲い来るロボットやシェリー達を、ファルコンの拳が、膝がどんどん吹き飛ばしていく。その後をオリマーを先頭にしたピクミン達がピョコピョコとついていく。ここだけ見れば、けっこう牧歌的な雰囲気だ。
「大丈夫かい?」
「敵はほとんどあなたがやっつけてますからねぇ……っと」
空から降ってきた鳥を避け、手近にいた紫ピクミンを投げつける。その鳥はあっさりと吹っ飛んでいき、ピクミンは大慌てでオリマーの元に戻ってきた。
ファルコンの説明によれば、この島は現在世界を支配しようとしている亜空軍のアジトなのだそうだ。そのため、こんなに警備が厳重なのだという。そしてそのまま、こうしてファルコンに成り行きでついてきている。
島自体は、うち捨てられた遺跡を自然が侵食しつつあるという雰囲気。鳥やカブトムシはともかく、ロボットにはそぐわない。
「何故彼らはこんな遺跡しかない島を?」
特に目新しい科学技術や魔法技術があるようには見えないし、宝石などの資源があるわけでもない。考古学者なら泣いて喜ぶかもしれないが、これから世界を支配するのにただの遺跡など意味はないだろう。
「さあな。だが、この島は未だかつて我々が踏み入ったことのないほぼ唯一の場所だ。存在すら、つい最近知ったばかりでな。勝手が全く分からない……だが、確かにアジトらしいものは見当たらないな」
雑魚狩りに来たんじゃないんだが、とぼやくファルコン。
「危険だから帰りませんか?」
「この島から出ても危険だぞ。その辺を亜空軍の連中がうろついてるし、そこかしこが亜空間爆弾で切り取られてるし」
「前門の虎、後門の狼……」
ドルフィン号が壊れている以上、選択肢は一つしかない。平和が欲しいと呟きながら、オリマーはファルコンの後についていった。
しばらく進むと、島の端に出た。
「……浮遊島だったんですか」
「だから、誰も気づかなかったんだ。本来ならもっと上、成層圏のあたりを飛んでたみたいなんだが」
眼下に見下ろすは、世界の危機でも変わらず青い海。遠くにうっすら陸地が見える。
「成層圏だと、あの植物達が育たないかと」
「ああ、ステルスを兼ねた防護システムがあったみたいだぞ。でも今は何故かシステムが沈黙している。おかげで俺もほとんどマークされずに侵入できたんだからいいんだけどな」
ふと、ファルコンは黙った。こちらに、何かが飛んでくる。
プリム達の乗ったフロートだ。フィギュアが鎖で繋がれている。
「やはり、アジトはこの島か……だが一体どこに……」
と、フロートを追うように白と青のカラーリングの戦闘機が飛んできた。……アーウィンだ。
アーウィンはあっという間にフロートに追いつき、フロートの上でくるりとさかさまになるとそのままコックピットを開いた。
「ウキィッ!」
ファルコに送ってもらったディディーだ。落下地点が少しずれてしまったが、ディディーは慌てずジェットバレルで舞い上がった。
そのままピーナッツ・ポップガンでフロート上のプリム達を撃ち落とし、そのままフロートに飛び乗った。
その間にもフロートはどんどん近づき、ファルコン達の目にも状況がよく見えるようになっていた。
「ふむ。義を見てせざるは勇なきなり、か」
「え? ……ま、まさか」
オリマーは後ずさったが、それより早くファルコンがオリマーを抱え上げた。
「さあ、彼らを助けに行こう!」
「いあああああ私には帰りを待つ妻と子供がああああああ」
まばゆい太陽と泣き叫ぶオリマーの声をバックに、ファルコンは勢いよく崖から飛び出した。
大きな船でドンキーを追いかけてもらいながら、ファルコにこう言われた。
「海の上じゃあ、撃ち落とすとドンキーを拾えねえ。かといってアレを捕まえられるだけの装備はオレらにはねぇ。テメェ一人をあのフロートの上に落とすから後は上手くやれ。骨くらいは拾ってやる」
ディディーは二つ返事で了解した。送ってもらえれば、後はどうにでもなる。
大きな船では追いつけないから、と小さな飛行機に乗せてもらい、約束通りフロートまで送ってもらった。
ピーナッツガンでにっくきプリムを追い払い、鎖につながれたドンキーのフィギュアの前に立つ。
「キィ!」
ディディーが台座に触れると、まばゆい光を放ってドンキーが動き出す。ドンキーはまるで絹糸でできていたかのように鎖を引きちぎると、胸を叩いて吠えた。
「ウホウホウホウホ!」
「ウキィ! キィ!」
と、後ろで足音がして、ディディーは振り向いた。
「やあ! 助けに来たつもりだったんだが、特に必要はなかったみたいだな。……久しぶりだな、ドンキー」
フロート上に華麗に着地を決めたファルコンとオリマーだ。片手をあげて爽やかに挨拶するファルコンの傍で、オリマーは何だかぐったりしている。
と、オリマーが後ずさってファルコンの陰に移動しながら呟いた。
「あー……でもやっぱり助けないといけないみたいですよ……」
まるで蜃気楼のように、プリムの大群が音もなくフロートの上に出現していた。
今までこのフロートのどこにいたのだろうというくらいの大量の亜空軍が次々に4人に殺到する。
が、それでも所詮は雑魚の寄せ集め。歴戦の強者もいるこの4人組を蹴散らすには少々役不足だった。
プリムシリーズからファウロン、スパー、とにかくわらわらと足の踏み場もないくらいに押し寄せてくる亜空軍に、ディディーがピーナッツ・ポップガンで隙を作り、ドンキーがダイナクラップでまとめて吹っ飛ばす。元々敵味方入り混じっての乱闘を得意とする二人だ、捕らえられていた分の憂さ晴らしもかねて存分に暴れまくった。
ファルコンもその俊足を生かしてフロート上を駆け回り、幾多の亜空軍を蹴散らしていく。……オリマーだけがピクミンと共にパニック状態で走り回っていたが、自分に向かってきた敵をしっかり吹っ飛ばしているあたりは四十路の心意気である。
ドンキーの最大タメのジャイアントパンチが最後のメタルプリムを沈め、フロートに静寂が戻った。
「ウッホ、ウホ」
「ウキ、ウキッキ」
喜びの舞を踊るドンキーとディディーの横をかすめるように、アーウィンが接近する。
コックピットのファルコが、笑いながら親指を立てていた。
「キィー!」
そのまま母船に帰っていくアーウィンに、ディディーは両手を振る。
と、不意に陽がかげった。4人が振り向くと、エインシャント島がすぐそこまで近づいていた。
「……なるほど。上の遺跡はダミーだったか」
島の土台に、長方形の穴が開いている。フロートはそのままそこに向かっていく。
「これは……」
無機質な発光パネルに照らされる、ちり一つなく磨かれたフロア。……高度な文明のものである。