雲界〜ジャングル
カービィとピーチは、空間の穴に吸い込まれる前にワープスターで脱出していた。
「ねぇカービィ、どこに行くの?」
ワープスターには、乗組員を保護する機能などない。強い風に耐えるようにしゃがんで、ピーチは自分の前で風除けになってくれているカービィに問いかけた。
「知らないよ。ワープスターは“どこかに行くもの”だから、どこに行くかは着いてみないと分からない」
それがワープスターの最大の欠点であった。幸いにも、ピーチはそんな不確かな乗り物に不安を覚えるような性格ではなかったため、あっさり納得して引き下がった。
……と、2人の背後から轟音が聞こえてくる。
「……え?」
後ろを振り返ると、戦艦ハルバードが迫ってきていた。
「カ、カービィ、スピード上げて!」
「これが最高! もうこれ以上は上げられない!」
「じゃあ避けて!」
「だから、ワープスターは操作でき……」
カービィが全部言い切るより早く、ハルバードはワープスターに追突した。
キン!
澄んだ音を立てて、ワープスターが砕け散る。その衝撃で2人は吹き飛ばされたが、ハルバードは傷一つつかなかった。
「うぅ……」
幸運にも、2人はハルバードのブリッジに落っこちた。風は強いが、先ほどまでワープスターに乗っていたため耐えられないほどではない。
「ね、どこかに入り口があるはずだから、そこから中に入ろうよ」
「そうね。これ以上あの嫌なモノを撒かれちゃごめんだしね」
航行中のハルバードのブリッジには見張りの姿はない。2人はスタスタと歩いて入り口を探した。
ドドドォン!
船体が少し揺れた。どうやら、大砲を撃ったらしい。
ハルバードに追いついた戦闘機は、これを見事な操縦でかわす。
「アーウィン!」
フォックスかファルコか、どちらが乗っているのかは分からないが、あれはまさしく『スターフォックス』の誇る戦闘機アーウィンだ。
雨のように降り注ぐ砲丸やビームを、優雅ともいえる動きでかわしていくアーウィン。
だが、ブリッジにあった運搬・修理用のアームが勢いよく伸びてくることまでは流石に予想できなかったらしい。アームは、アーウィンの翼を片方もぎ取った。
操縦不能になり、墜落しそうなアーウィン。パイロットは必死で立て直そうとして、ハルバードのブリッジに――よりにもよってカービィとピーチがいるあたりに突っ込んだ。
「――!」
逃げ場なんて、どこにもなかった。
「きゃあああああっ!」
「うわぁああああっ!」
アーウィンは落ちる寸前で方向を変えたため2人に直撃こそしなかったものの、巻き起こった風に軽い2人はあっさりと吹き飛ばされた。さっきのようなラッキーは、二度もおこるものではなく。
2人は、炎上するアーウィンとは反対の方向に落ちていった。
「……いったぁ〜い」
雲の上に落っこちた2人は、ゆっくりと起き上がった。
……柔らかい雲の上だったからこそ、戦闘不能にならずに起き上がれるのだが、あまり深く考えない2人はそんな幸運に気付かなかった。
「雲の上だね。歩いて地上までいけないかなぁ」
「きっと行けるわ。さ、行きましょう」
「じゃ、あっちね」
2人が落ちたのは、マリオとピットが使っているのと同じ道。行く方向によっては2人に会えたのだが――カービィが選んだ方向は、マリオ達のいる方向とは正反対だった。
そんなことも露知らず、2人は襲い来る亜空軍の手先に立ち向かっていった。
――所変わって、ここはジャングル。
ジャングルの王者であるドンキーコングは怒り狂っていた。
高い崖の上に立つ彼から見えるのは、走り去るバナナ満載のカート。……不届きもののクッパ軍団が、彼の宝を盗んでいったのだ。
当然、許すわけにはいかない。
追ってくるドンキーに気付いたのか、カートの後ろに設置されていた砲台からキラーが撃ち出された。
だがドンキーは慌てず、その場に軽くかがんだ。ジャングルを駆け抜けてドンキーの肩を踏み台にして高く飛んだ小さな影が、手にした2つの銃を飛んで来るキラーに向けた。
ポン! ポン!
少し気抜けする音と共に、落花生が発射された。落花生は正確にキラーの鼻先に当たり、空中で爆発させた。
そのまま、彼はドンキーのもとへと落ちていく。――赤い帽子がトレードマーク、ドンキーの相棒のディディーコングだ。
第二弾のキラーにも慌てず、落ちながらピーナッツ・ポップガンを撃つ。これも見事に命中し、キラーはどこか違う方向にふらふらと飛んでいった。
「ウホッ!」
ドンキーは小さな相棒にうなずいた。やるべきことは、ただひとつ。
「ウキッ!」
ファイティングポーズをとった2人の背後に、ふらふらとキラーが墜落して爆発した。
本来、ジャングルというものは道を作るのに適した場所ではない。そのため、道は細く蛇行している。
だが、元からジャングルの住人である2人にはそんなものは関係ない。足止めをしようとするクリボーやノコノコ達を蹴散らし、タル大砲を活用し、あっさりとカートに追いついた。もちろん、運転していたハンマーブロスに手加減する理由など欠片もないわけで。
「ウホッ!」
「ウッキィ!」
横倒しになってバナナをぶちまけたカートの前で、2人は勝利を祝った。……持って帰る方法は、考えていないらしい。
と、ズシンという重い足音がジャングルから響いた。
振り返る2人の前にいたのは、クッパ軍団のヘッド、クッパ!
「がっはっは、カートは止められたようだな」
身構えるドンキーの前にディディーが出た。クッパのような鈍重なタイプなら、ディディーの足でかき回した方がいいからだ。
だが、クッパが怪しい銃を取り出して構えるのを見たドンキーは、嫌な予感に襲われた。慌ててジャイアントパンチのタメに入る。
クッパが銃の引き金を引いた瞬間、ドンキーは相棒の背中にジャイアントパンチをくらわせた。
「ウキィッ!?」
予期せぬ攻撃に、まともに吹っ飛ぶディディー。
彼が吹っ飛ばされながら見たものは、クッパの銃から放たれた黒い矢印がドンキーを貫くその瞬間だった。