平地〜湖
マリオがピットの道案内で降り立ったのは、どこまでも広がる草原だった。
「ハルバードはあっちの方向に飛んでいったんだよな」
「急いで追いましょう」
2人は走り出した。
ここにも既に、亜空軍の姿が見えている。スタジアムや天空界では見られなかった敵もちらほら見える。
その代表が、管楽器のような頭をした奇妙な敵――そいつ自身の鼻歌によれば、ブーパスという名前らしい。誰もいないとスキップしながら鼻歌を歌っているが、マリオ達が姿を見せたとたんに口から強い風を吹き出す。ダメージはないが、空中移動の多いピットにとっては特に邪魔な相手だ。しかも、大抵一緒にあの人形のような敵――鼻歌によれば、プリムというらしい――と一緒に出てくるため、さらに厄介だ。
「ふぅむ、このプリムとかいうヤツは、クッパ軍団におけるノコノコと似たようなスタンスのようだな」
一斉に出現した炎を吐く赤いプリムを倒して、マリオは走りながら考えた。
「ノコノコ?」
「カメ。甲羅の色がそれぞれ違って、個体によっては飛んだりできる。まぁあれだ。バリエーションのあるザコ」
ピットは小さくうなずいた。
「なるほど……なら、目的は僕たちの足止め」
「つまり、どうしても追いつかれたくないってことだな」
「急ぎましょう!」
ピットの双剣が、プリムを2体まとめて切り裂いた。
新しい亜空間爆弾をぶら下げ、エインシャント卿は悠々と空を飛んでいた。
……ふと振り返ると、スタジアムでまいたはずのマリオが天使と一緒に追ってきている。……データによれば、あれは確か天空界にいる女神の親衛隊長ピット。厄介な相手だ。弓を使おうとしていないのは、矢を放つには足を止めなければならないからだろう。
と、マリオが大きくジャンプしてきた。まあ、彼のジャンプ力は予測済みだ。彼の手は、わずかに届かない。
と、マリオを踏み台にしてピットがジャンプした。慌てて高度を上げる。ピットの手も、ギリギリかわすことが出来た。
急いで目的地に向かう。地上に降りた二人が、悔しそうにこちらを見上げていた。
ディディーは急いであの場所に戻ろうとしていた。
ドンキーがやられた。ドンキーを助けるのは、相棒である自分の役目だ。そう、あのデカいカメをぶっ倒して!
ジャングルの中にある湖に来たところで、ディディーは足を止めた。湖畔で、何かの乗り物が燃えている。あいつらのものにしては、何となく雰囲気が違う。そう……何かにやられたような。
ゴポ……ゴポ……
湖が波打つ。
「ウキィ?」
湖を割って現れたのは、翠色の長大な龍!
「ウ……ウキ……」
それがレックウザと呼ばれる伝説のポケモンで、本来なら天高くにいる種族であることなどはディディーは知らない。だが、『コイツはヤバい!』と本能で察知し、ディディーはおっかなびっくり後ずさる。
グォォォオオオオオッ!
レックウザが大きく口を開けると、そこに巨大な雷球が生まれた。凍りつくディディーにかまわず、それを思い切り放つ!
ゴガァアン!
湖畔にあった乗り物は、その一撃で完全に壊れた。炎がさらに激しくなる。
そのままレックウザは素早くディディーに近付く。凍り付いていたディディーは、なすすべもなくさらわれた。
「ウキ、ウキィィィッ!」
レックウザの口がディディーに近付き――
ドシュ!
壊れたはずの乗り物から、誰かが勢いよく飛び出した。
その勢いのままレックウザの腕からディディーをもぎ取る。目にもとまらぬ早業に、レックウザは一瞬きょとんとした。
「ウキ……」
ディディーのピンチを救ったのは、彼からしてみれば奇妙なモノだった。狐なのに、服を来て歩いている。
――フォックス・マクラウド。あのアーウィンの操縦者は、彼だったのだ。
ゴォォウ!
レックウザが怒りに吠え、再びあの雷球を作り出す。怯えるディディーの隣で、フォックスは余裕の表情で腰に下げていたリフレクターを軽く叩いた。
勢いよく放たれた雷球は、フォックスの展開したリフレクターにはね返されてレックウザ自身を直撃した。轟音と共に、レックウザの巨体が湖に沈む。
「あのデカブツ、このくらいでやられるタマじゃないだろ。だが、俺たちでも倒せそうだ。……戦えるんだろ?」
フォックスは振り返って、へたり込むディディーに笑いかける。湖から、再びレックウザが現れた。
巨大な体というのは、攻撃をくらいやすいかわりに攻撃を当てやすいものだ。レックウザはとにかく攻撃範囲が広かった。
「くっそ、面倒だ」
振り回される長い尾をジャンプしてかわしながらフォックスが毒づいた。
ディディーも素早く攻撃をかわしながらレックウザの頭を狙った攻撃を繰り出すが、なかなか効いていないようだ。2人とも、身が軽いかわりに攻撃力がさして高くないのだ。ブラスターを連射しながらフォックスは声を張り上げた。
「おい、この戦いは長引くぞ! 攻撃をくらわないことを重視しろ! ……おっと」
再びレックウザが地面にもぐった。フォックスとディディーは足元を警戒する。
「……!」
わずかにフォックスの足元が盛り上がった。フォックスが飛びのくと、そこから勢いよくレックウザが飛び出してきた。飛びのきながらフォックスはブラスターを撃ちまくり、ディディーもピーナッツ・ポップガンで援護する。
レックウザのリーチは確かに大きい。が、体が長いせいなのか、頭で攻撃するときは頭、尾で攻撃するときは尾でしか攻撃できないのだ。つまり、それ以外の場所なら無防備で攻撃し放題。それを見抜いた2人は、かわすことに専念しながら少しずつ攻撃を加えていった。
――グォォォォオン!
喉元に決まったフォックスのフリップキックが決定打となり、レックウザの巨体は地に沈んだ。
「ウッキィ!」
ディディーは飛び上がって両手を叩いた。フォックスも、一仕事終えた満足感にニヤッと笑った。
……この人は強い。一緒に行けば、絶対アイツにも勝てる!
ディディーが期待に満ちた顔で振り返ると、
「じゃ、俺はこれで」
フォックスはあっさりと踵を返して歩いていくところだった。
「ウキィッ!」
慌ててその服をつかまえて引き戻し、ディディーは必死で状況を説明する。……が、あいにくフォックスにサル語は分からなかった。
「……分からん。とにかく、俺は行くぞ」
スタスタと歩き出すフォックス。業を煮やしたディディーは、その襟を掴んでドンキーがやられた場所に走り出した。
「……くそ、災難ばっかりだ」
振りほどいても、同じことの繰り返しだろう。フォックスは諦めた顔で大人しく引きずられることにした。
「ウキ」
ジャングルの道なき道を、ディディーはクッパ軍団を蹴散らしながら何のためらいもなく進む。渋々同行することにしたフォックスが援護しながらそれを追う。
「おい、お前の用事が終わったら、ちゃんと俺をジャングルの外に送れよな、……ディディー」
ハンマーを投げつけてくるカメにジャンプサイドキックをお見舞いしながら、フォックスはさっき見せてもらった帽子の裏に印されていた名前を呼んだ。
「ウキ」
「しかし、お前らのジャングルにはこんな物騒なモンがいるのか」
「ウッキィ」
ディディーは首を振って全力で否定した。カメどももでっかい羊っぽいのも上空から降ってくる鳥も、本来このジャングルにはいない。
「チッ、だとするとあっちの関係か……厄介だな」
アーウィンを撃墜したあの戦艦を思い出し、フォックスはいらだたしげに舌打ちした。
ディディーの案内でジャングルの地下にあった洞窟を抜け、大きな川に出る。恐らく、水源はあの湖だろう。
「……これを渡るのか?」
泳いで渡るには流れが速すぎる。フォックスがディディーに訊ねると、ディディーは首を振って近くの茂みにもぐりこんだ。フォックスが待っていると、少しずつ何かが押し出されてくる。……丸太の船だ。
「なるほど。これを下るんだな」
「ウキ」
フォックスも船を川に寄せるのを手伝う。船は2人が乗っても十分な大きさがあり、またかなり頑丈に出来ていた。
「しかし、あの変なタルといいこの船といい、ここはいやにお前らに都合よくできてるな」
「ウッキ」
当然とばかりにディディーは胸を張った。なにせ、ここは彼らの庭なのだ。彼らに都合よくできているのは当然だろう。
丸太の船は流れに乗って走り出す。2人が飛び乗ると、それを狙うかのようにパタパタやキラーが襲い掛かってくる。
「よっぽど、俺たちを来させたくない奴がいるらしいな!」
「ウキ!」
飛んで来る敵をあるいは避け、あるいは迎え撃つ。そうこうしているうちに、船は自然と中流あたりの川岸に打ち上げられた。
「ウキ」
「……ここからまた歩きか」
どうやら、最終目的地は川から少し離れているらしい。フォックスは変わることのないジャングルの景色に少しうんざりとしながらもディディーの後を追った。
群がる敵を蹴散らしつつ、ディディーはあの場所に向かう。やがてたどり着いたそこには、何も残されていなかった。
「ウキ……」
落胆するディディー。
(……何かあったな)
地面に残る、車輪の跡と何かがこすれたような跡。そして、大きな足跡。ディディーが訴えようとしていたのは、このことだろう。
と、ジャングルの向こう側から、何かが近付いてきた。
「……ウキ! ウキ、ウキキッ!」
その姿を見たとたん、ディディーがすごい勢いで怒り狂った。
(あぁ、犯人か)
フォックスがそちらを見ると。
「……クッパ?」
かつて会ったことのある仲間の姿がそこにあった。
クッパの吐き出した炎が、さっきまでフォックスのいた場所の地面を焦がす。
「チッ!」
距離をとってブラスターを連射しながら、フォックスは舌打ちした。
善人とは言えないが、こうもいきなり襲い掛かるような悪人でもなかったはずなのだが。それに、何やら嫌な気配がする。……あの戦艦のような。
とりあえず話し合いの線を捨て、フォックスはクッパを倒すことにした。
が、戦ったこともあるために分かるが、クッパはかなり重い。自分やディディーの攻撃力では、相当ダメージを溜めないと吹っ飛ばせないだろう。
「ディディー、少しずつダメージを与えろ! それから吹っ飛ばせ!」
怒りのために前に出すぎるディディーをなだめるが、ディディーは聞かない。とにかく、少しでもダメージを与えるためにブラスターを撃ちまくる。
と、ディディーがついにクッパにつかまった。ディディーも相当ダメージをくらっていたはず。もし投げられたら危ないかもしれない。
「フッ!」
湖の時のように、フォックスイリュージョンでディディーをクッパから引き離す。クッパの注意がフォックスにそれたところに、ディディーのダブルラリアットが綺麗に決まった!
「グァアアアアッ!」
クッパは吹っ飛び、フィギュアに戻る。ディディーが軽くつつくと、それは黒い何かの粒子になって地面に溶けていった。
「ウキ!?」
こんなフィギュア、見たことない。ディディーはかなり驚いた。
「……!」
と、気配を感じたフォックスが顔を上げる。黒い矢印が、2人めがけて飛んできた。素早く飛びのくと、矢印は地面に突き刺さって爆発した。
「ウキィ!」
これは間違いなく、ドンキーがやられたあの攻撃だ。
ジャングルの向こうから姿を現したのは、やはりクッパだった。あの銃を構えている。
飛びかかろうとしたディディーを小脇に抱え、フォックスは逃げ出した。
同じことの繰り返しにならない保障はない。それに、正体不明の強力な武器が向こうに手元にある以上、無闇に戦いを挑むのは危険すぎる。
崖から飛び降りたフォックス達を見て、クッパは高らかに笑った。