まだ見ぬ珍味を追い求め


リンクは、1人森の中を歩いていた。
木漏れ日の隙間をぬって妖精の舞い踊るこの森には、危険はほとんどない。剣も盾も背中にしまい、上機嫌で歩を進めていく。
皆と乱闘したりするのも楽しいが、こうやって1人で旅をするのはやはり落ち着く。
「……ん?」
と、何か硬いものを踏んだ気がしてリンクは足元を見た。



ドガァン!
「よし、かかったな」
罠を仕掛けていたスネークは、遠くで響いた爆音にニヤリと笑う。
この森に仕掛けておいたいくつもの罠は、発動させれば爆音がするのでよく分かる。ここは全く安全な森で、なおかつかなり人里離れているため修行に来る者も散歩に来る者もいない。ターゲットのみを捕獲するにはうってつけの場所だ。
下草や邪魔な枝を掻き分けることなく匍匐前進で発動した罠のところに向かうと。
「……で?」
網にがんじがらめになって木の枝からぶら下がるリンクが冷たい目でスネークを見下ろした。



「全く……戦士なら足元に気をつけろよ」
「こんな安全な場所で、誰が罠の警戒なんかするんだっ!」
とりあえず下ろしてもらったリンクは、むっとした顔でずれた帽子を直した。彼が踏んだのは対人地雷なのだが、ブーツがすすけた程度のダメージですんだらしい。さすが勇者。
「で、罠を仕掛けた理由は?」
スネークは罠を仕掛けて喜ぶタイプではない。何か理由があるのだろう。
「ああ。実は、狩りをしているんだ」
「……腹でも減ったの?」
「いや。きちんと食料は携帯している。食うか?」
「絶対いらない」
スネークの携帯食料の素晴らしい不味さを知っているリンクは即座に断った。あれを食べるくらいなら激辛カレーの方が何倍もマシだ。
「まあ、狩りくらいなら俺も手伝うよ。あっちの方で鹿を見たし」
「鹿じゃない。実はだな、この森には珍獣が生息しているんだ」
「珍獣?」
リンクは首をかしげた。
「それって、普通の動物でもポケモンでも、キノコ王国やプププランドの生き物でも地球外生命体でもピクミンでもない生き物だよな」
「そうだ」
違います。
「それで、是非そいつを一頭捕獲して食ってみたいんだ」
「なるほどー……確かに、スネークの武器じゃあ粉砕しかねないもんなぁ」
「ああ。軽火器を持ってこなかった俺のミスだ。だからこうして地雷とバンパーで罠を仕掛けている。他の動物なら、まず発動させられないからな」
と、バンパーを詰め込んだ段ボールを示した。
「いや、バンパーはともかく地雷は普通に危険なんじゃないか?」
「地雷の目的は殺すことではなく手足を吹き飛ばすことだ。肉が残っていれば味見は可能だろう」
「なるほど」
リンクは納得した。
「じゃあ、俺も手伝うよ。罠を仕掛けるのは手伝えないけど、もし間近で遭遇した場合にはスネークが撃つより剣で斬った方がいいだろ? それに、弓もあるし」
「謝礼はヤツの肉くらいしかないぞ」
「いいよ、それで。話のタネになるし」
こうして、リンクとスネークは珍獣捕獲に乗り出した。



「そういや、罠はいくつ仕掛けたんだ?」
「今のところ12……お前が引っかかったから11だな。残りの材料で14個設置できる」
網と地雷の位置を確認しながら、スネークは慎重にバンパーの設置位置を決める。
仕掛けとしては、地雷で真上に飛んできた獲物をバンパーが弾き、少し離れた場所に設置した網に突っ込ませて身動きを取れなくするというものだ。リンクにはすることがないので、バンパーの入った段ボールを持って作業をぼんやりと眺めていた。
「……よし、いいぞ。次だ」
スネークの言葉を合図に、2人はそこを移動した。
「む……このあたりは前に罠を仕掛けたエリアだな。近道して突っ切るぞ。踏むなよ」
「分かった。気をつけるよ」
といっても、地雷を見抜くのは慣れていないリンクには難しい。少し考えて、スネークの歩いた後を歩くことにした。
足音を殺し、静かに歩を進める。慎重にスネークの歩いた後を追うリンクの足元で、小さくカチッという音が鳴った。

ドォン!

「うああああっ!」
「どうした!?」
スネークが振り向くと、リンクは再び罠に引っかかって木の枝からぶら下がっていた。
「おい、足元に気をつけろと言っただろう」
「あんたの歩いた後をそのまま歩いたんだ、普通安全だって思うだろ!」
「見なかったのか? さっき俺は地雷をまたいでいただろう」
「見えるかー!」
ジタバタともがくリンク。
スネークはため息をつきながら、リンクを再び下ろしてやった。
「あのな、これ以上こっちの――」

……ズドォン!

スネークが口を開きかけた時、遠くで爆音が響いた。……何かが、罠にかかった。
「……もしや、ついに!?」
流石にまた誰かが引っかかったということはないだろう。2人は急いで音のした方に走った。



網にがんじがらめになってぶら下がっているそれは、緑色をしていた。
「ついに……捕獲成功だ!」
「え、これ?」
何か、あんまり美味しくなさそうな色だなとリンクは思った。切り分けて食べるものだと分かってはいるが、鮮やかな緑の生き物というのも何だか微妙なものだ。
網から逃げられないように、慎重にそれを下ろす。と、それが弱々しく鳴いた。
「……ヨッシー……」
「あれ?」
思いっきり、聞き覚えのある声だ。リンクは中身を斬らないように慎重に網を斬っていく。
「よし、俺は料理の準備をする。リンク、悪いがそいつの血抜きを頼めるか?」
「いや、スネーク……これ、ヨッシーなんだけど」
ほら、と顔を出させるようにする。困ったような表情で転がっているのは、紛れもないヨッシーだ。
「ほう、ヨッシーというのか。爬虫類は全体的に鶏に似た味がするというが、これはどうなのだろうな」
そう言って作業を続けるスネーク。……本気だ。本気で食べる気だ。
「いや、ヨッシーは珍獣じゃなくて恐竜! しかも俺達の仲間!」
慌ててリンクが網をほどこうとすると、それに気付いたスネークが立ち上がる。
「おい、何をするんだ。折角の獲物なのに」
「ヨッシー、ここは俺に任せて逃げるんだ! もし今スネークに捕まったら……」
リンクは青ざめた顔でヨッシーを見つめた。
「あのまっずい携帯食料にされてしまうっ!」
「……ヨッシー!」
ガーン、というSEが似合う表情でヨッシーは硬直した。
(あ……あんなまっずい食べ物にだなんて……死んだ方がマシだ……!)
非常に残念なことに、ここにはこの2人、いやスネークも含めた3人の思い違いを正してくれる存在はいなかった。
「ヨッシー!」
火事場の馬鹿力で残った網を引きちぎり、ヨッシーは脱兎のごとく走り出す。後を追おうとしたスネークの前に、剣を抜いたリンクが立ちはだかって牽制する。
「……何故俺の食事の邪魔をする」
「これ以上、あんな不味いモノを増やしてたまるか……!」
言葉は全く噛みあっていないが、何をしようとしているかは同じようだ。鋭い殺気があたりを覆い、鳥の声がふっとなくなる。
「……」
先に仕掛けたのはリンクだ。ブーメランを投げつけながらダッシュし、マスターソードを一閃させる!
が、スネークも慣れたものでこれを緊急回避でかわし、リンクの背後に回る。そのまま、逃げたヨッシーの後を追って走り出した。
「しまった!」
慌ててリンクが後を追うが、スネークは慌てることなく後ろ手に手榴弾を放り投げた。とっさに盾で受け止めるリンク。

ドン!

手榴弾は盾に防がれてリンクは無傷だったが、これは痛いタイムロスだ。
それでも、リンクは諦めない。すぐにスネークの後を追った。
「スネーク!」
リンクがクローショットを取り出そうとしたその時。

ズドォン!

「うおっ!?」
何と、よりにもよって、スネークが自分の地雷を踏んでしまった。そのまま上に吹き飛ばされ、バンパーに弾かれ、勢いよく網にダイブする。
「……」
リンクは困った表情で頬をかいて剣をしまった。身動きの出来ない相手を斬る趣味はない。
「……帰るか」
何か、もうどうでもよくなってきた。
疲れた表情でその場を立ち去るリンクの背にスネークが何やら言っているが、疲れ果てたリンクの脳はそれを理解することを拒否していた。





後書き



意味不明なヨッシー受難話でした。

スネークのネタの豊富さに、他のキャラのネタが思いつきません……通信はじけすぎだろ。