愛のカタチ
「愛ってどんなの?」
唐突にトゥーンが言い出した。
「何でいきなり?」
リュカが首を傾げると、トゥーンはポポとナナを指差して答えた。
「うん。ポポとナナ見てたら、2人ともラブラブだなって思って」
「ちょ、どういう意味よ! わ、私はポポの恋人なんかじゃないわよ!」
「そ、そうだよ! 僕らはパートナーなの、こっこっこっ恋人なんかじゃないの!」
顔を真っ赤にして同時に抗議し、同時にお互いの発言に微妙に傷ついて落ち込むアイスクライマー。トゥーンは理解できずに首をかしげているが、はたで見てると初々しくて可愛いなとトレーナーは思った。
「まあまあ、2人とも」
もちろん、そんなことを言って場をさらに乱すようなことはしない。トレーナーは大人なのだから。
「大体、愛について聞くんなら、もっといい人がいるじゃないか」
「誰?」
「ピーチ姫」
おお、と全員が感嘆の声を上げた。
「じゃあ、早速聞きに行こう!」
ネスとリュカにテレポートを頼み、彼らはピーチ城に向かった。
ところが、彼らの思惑は思い切り外れることになる。
「はい、あーん」
「あーん。……あぁ、やっぱりピーチ姫の作ったケーキは美味しいね」
「本当? 嬉しいわ」
「本当だとも。何なら、食べてみれば分かるんじゃないか? ほら」
ピーチ姫は今、テラスでマリオとケーキを食べさせあっている。そこまでいって話しかけるだけなのだが、何故か何かの力が働いているかのごとく近づけない。
ケーキを前によだれを垂らしているカービィですら、一歩も足が進まない状態である。他のメンツは推して知るべし。
「ど、どうして……2人とも魔法なんか使えないはずなのに……」
それが『バカップルオーラ』と呼ばれる世界最強の結界であるということを知らない子供達は、ただただその存在に戸惑うばかりだった。
「……何をしているの?」
と、後ろから声をかけられた。子供達が振り向くと、そこにはゼルダが立っていた。
「あ、ゼルダ姫。あのね、ピーチ姫とお話したいんだけど……」
「ああ、あの状態じゃ無理でしょう。私でよければ、かわりに聞くけれど」
チラリとテラスを見たゼルダは、そう言って肩をすくめた。慣れているらしい。
「えっとね、愛って何?」
「……またそんな、いきなりディープな質問を」
さすがのゼルダも、これには困ったような表情になる。それでも、言葉を選びながら丁寧に答える。
「そうね……かけがえのないもの、かしら。その人がいてくれるだけでいいの。笑ってほしいの。その人が傍にいて、笑ってくれるから、幸せになれるの」
「じゃあ、もしその人が傍にいなかったら?」
「いつでもいますよ。心の中に」
そう言って静かに胸に手をあて、ゼルダは微笑む。子供達はほうと息をついた。
「じゃあ、ポポとナナはやっぱりラブラブだよね?」
「そうね……2人に愛はあるでしょうけれど、ラブラブではないわね。ラブラブというのは、ああいうことを言うの」
2人が反論するより早く口をはさんだゼルダは、テラスを指差した。相変わらずいちゃついている2人はところかまわずバカップルオーラを振りまいている。
「一口に愛といっても、それには様々な形があるの。オリマーさんが真面目に働いているのも愛する家族がいるからだし、何だかんだで大王やクッパが手下達に嫌われたりしないのも、ちゃんと彼らに愛情を持っていることを皆知っているからなのよ」
ここまでは真面目な会話だったのだが、ここでカービィが爆弾を投入した。
「そっか。じゃあ、ゼルダ姫がリンクが一人でほっつき歩いてても平気なのも愛があるからなんだね!」
「っ……そ、そうですね」
辛うじて動揺を表に出すことをこらえたゼルダだったが、目元や耳は一瞬で赤く染まった。
そしてそこに、さらなる追い討ちがかけられる。
「ピーチ姫はマリオとラブラブしてるけど、ゼルダ姫ってリンクが一緒にいてもラブラブしないよね。なんで?」
「な、なんでって……」
「だから、それはゼルダ姫の愛の形がピーチ姫と違うからだろ? 俺見たよ、2人が並んで木の下に座って昼寝してるとこ」
次々にかけられる子供達の言葉に、ゼルダは顔を真っ赤にさせながらおろおろしだした。先ほどの静かな様子からは想像もつかない変化だ。
いくら叡智に恵まれていても、恋愛話への耐性までは持ち合わせていなかったゼルダであった。
「……あ、ゼルダ。ここにいたんだ」
と、ここでとどめとばかりにリンクがやって来た。
誰だ黒幕はと叫びたくなるくらい、バッチリのタイミングであった。
「よっ……用事を思い出したので! 失礼します!」
「あ、ゼルダ!?」
脱兎のごとく駆け出すゼルダとそれを追うリンク。2人をぼんやりと見送ってから、子供達は顔を見合わせた。
「ゼルダ姫の愛って難しいね」
「あっちはすっごく分かりやすいのに。何でだろ」
「頭がいいからだろ。あれこれ考えが巡るってのも考え物だね」
「一緒にいるのが幸せなら、一緒にいればいいのに」
「ねー」
そっくりな仕草で首をかしげるポポとナナ。
「でもまあ、疑問は解決したからいっか。ピーチ姫にケーキもらおうよ!」
トゥーンが満面の笑顔でそう言う後ろでは、ようやくピーチ姫が来訪者に気付いて席を立つところだった。
後書き
ゼルダ姫のあのセリフが書きたいばかりに書き上げた一品です。
何故かアイクラがツンデレっぽくなってますが気のせいです。
書いてる途中、ゼルダ姫が語った内容にデジャブを感じたのですが、書き上げてから判明しました。
ずっと前にギガクッパがダークリンクに語ってたのとほとんど同じだったよorz
何故当時の私はよりによってDX設定で破壊しかできないギガクッパに愛について語らせたのか……謎だ。