In the forest
「リンク、遠乗りに行かないか?」
訪ねてきたリンクに誘いをかける。リンクは快く了承してくれた。
彫りの深い端正な顔立ちに金色の髪、緑の服と帽子。遠くを眺めている切れ長の瞳に、均整の取れた体つき。
深い森を背景にした彼は、おとぎ話の世界から抜け出した妖精の騎士のようだと本気で思う。ゼルダ姫がそばにいれば、さしずめ妖精の女王とその騎士だ。
と、不意にリンクがこちらに顔を向けた。
「……お腹空いた」
身にまとう幻想的なイメージをことごとく自らの言動で粉砕してくれる勇者に、僕は苦笑した。自分がどう見られているかにはつくづく興味がないらしい。
「一応食べるものを持ってきてるから、どこか適当な場所で休憩にしようか」
「うん」
リンクは機嫌よくうなずいた。
少しひらけた場所に馬をつなぎ、持ってきたバスケットを開ける。パンとチーズと林檎というかなり質素なものだが、リンクはあまり気にならなかったようだ。
「じゃ、いただきます」
元気よく林檎を丸かじりするリンク。僕はお付き合いにチーズを少しだけつまむ。
「でも、また何で急に遠乗りに?」
半分かじった林檎を寄ってきたエポナにあげてリンクが訊ねてきた。
「ああ。ちょっと、リンクと2人だけで静かなところに行きたくて」
「……?」
リンクは首をかしげた。
まあ、この反応は大体想像できている。僕は構わず続けた。
「好きな人と2人きりになりたいって思うのは、普通のことだろ?」
「えーと、うん」
「だから、リンクを誘ったの」
きょとんとするリンクを引き寄せて、その頬に軽くキスをする。……いきなり唇を奪うほどには大胆になれない。
相変わらず状況のよく分かっていないリンクに苦笑して、正面に回って澄んだ碧眼を覗き込む。
「ねえリンク、僕は君をあ……」
「あああああああああっ!」
バキッとものすごく痛そうな音が僕らの頭上からした。
「何だっ!?」
バッとリンクが立ち上がる。……あぁもう、いいところだったのに。
「う……うぅ、誰か、助けて……」
木の上から、パルテナの神弓が落ちてきた。
「いやぁ、助かりました」
「全く、おどかすなよ」
まだ髪や羽に枝葉の残るピットが、苦笑しながら礼を言った。
どうやら、飛行訓練中に失敗して森に突っ込んでしまったらしい。それはいいけれど、何故よりにもよって僕らの頭上に……。
「というか、メタナイトあたりに習いに行けよ。あいつも飛べるだろ」
「ああ、それもそうですね。今度会ったら頼んでみます。ところで……」
リンクは完全にピットとおしゃべりモードに入っている。ちょっとのけものにされたみたいで寂しいが、ここは我慢だ。
しかし……森まで来て邪魔者が入るとは予想外だ。どこか、絶対に誰も来ないような場所はないだろうか……。
「……あ」
そうだ、砦の地下通路だ。あれはメタナイトにしか教えてないから他の誰かが来ることはないし、メタナイトはその間だけどこかにやっておけばいい。幸い、そこにメタナイトを押し付けられそうな人物がいるし。
よし、そうと決まれば全員のスケジュールを調整した上で……。
「あぁ、ごめんリンク。僕、ちょっと用事があるんだ。帰ってもいいかな」
「あ、じゃ俺も帰るよ」
「僕も、そろそろ天界に戻らないと。仕事がありますし」
2人も立ち上がって帰る準備を始めた。
「じゃ、また今度!」
「仕事頑張ってね」
「はーい! 次はアーチェリーに付き合ってくださいねー!」
ピットは手を振って歩いていった。
「じゃあ、途中まで一緒に行こうか」
僕はリンクと轡を並べて森の出口に向かった。
「たまには遠乗りもいいなぁ。……あ、今度アイクも誘って競馬をやろう!」
「……それはいいよ」
馬も乗り手も、明らかにリンクが上だ。僕に勝ち目はない。
「はは、でも今日は本当に楽しかった。また今度誘ってくれよ」
ニコニコと笑うリンクに、僕の顔も自然とゆるんだ。
「もちろん。今度は森以外の場所に行ってみよう」
今度こそ、邪魔が入らないようにセッティングしてみせる。
後書き
マルリンというよりマル→リンな話です。マルスがヘタレです。
地下通路ネタは亜空の使者より。
あそこの地下通路だと、一体誰が邪魔しに来るんだろうか。
・たまたま入り口を発見したアイク
・同上、子供達
・いきなり天井を破壊したギガクッパ
・墜落してきたオリマー
・プリム
どれがいいですかー?