似合わないことを


「もういい!」
パラライザーをファルコンに叩き込んで、サムスはその場から走り去った。ファルコンの方が足は速いが、最大出力でくらったのだからしばらくは動けないだろう。
誰もいない公園までやってきて、ベンチに座り込んで深くため息をついた。
……多分、自分が悪いのだ。せっかくファルコンの方から買い物に誘ってくれて、それなのにあの仕打ちだから。
「はぁ……」
逃げてしまったせいで、余計に謝りづらい。もう一度ため息をつくと、近くにあった段ボールがごそごそと動いた。
「何をしている」
「!」
反射的にパラライザーを鞭として振るうが、段ボールの中身は素早くそれをかわす。
「おい、何をする。声をかけただけだろう」
「……心臓に悪いから、そういうかけかたやめて」
パラライザーを腰に戻して、サムスはスネークを軽く睨んだ。
「で、何をしているんだ」
「何でもない」
「ファルコンと喧嘩したな」
「……」
表情に出すことだけは辛うじてとどめたサムスだが、沈黙が雄弁に答えを物語っていた。
「……喧嘩、じゃない」
「押し倒されたか?」
閃いたサムスの手刀を、スネークは片手で受け止めた。
「動きにキレがないぞ。精神的な問題はなるべく早く片付けないと、戦闘能力の低下につながる」
「……」
スネークの手を振り払い、サムスは気まずそうに目をそらす。
「……買い物に行った」
「いい銃があったか?」
「馬鹿、服をよ。それで、服を一着すすめられたんだけど」
「メイド服か?」
ちょこちょこ冗談をはさんで話しやすくしてくれるスネークに、サムスは少しだけため息をついた。自分はどうにも、誰かと向かい合った時に気の利いた会話ができない性分らしい。
「……普通の服。多分」
「多分って、おい」
「全然分からなくて。ほら、私は戦闘服かこんなのしか着ないし、同性の知り合いといえばお姫様だったり登山家だったりだし」
確かに、あの3人を普通のファッションのお手本にするのは無理だ。
ちなみに、サムスの今のファッションは黒のタンクトップと男物のジャンパーにカーゴパンツ。似合ってはいるが、お洒落とは縁遠い。
「上はともかく、スカートってのが……その、着たことないし」
「で、モメた挙句にファルコン殴って逃げ出した、と」
正確には撃ったのだが、この際同じだろう。
「……解決策が1つある」
「何?」
「ついてこい」
歩き出すスネークに、サムスは仕方なくついていった。



「……今すぐ逃げたい」
「解決できなくなってもいいなら好きにしろ」
山積みにされた服を前に、サムスはげんなりとした顔になった。
スネークのいう解決策とは、ファルコンが選んだような服を着て会いに行けというもの。何となく覚えていたため似たような服を指差して説明したところ、これだけ持ってこられたのだ。
「組みになってるから、崩すなよ。俺は正直女物の服なんか分からん」
コーディネートは店員がやったので間違いはないだろうが、こういう……いかにも女性っぽい服を着るというのは抵抗がある。しかし、それでさっきのような愚を犯すことはもっとはばかられる。
とりあえず一番上から適当にとり、サムスは試着室に入った。



服を着替えたサムスは、緊張した顔で通信機を握り締めていた。
『……こちらスネーク。ファルコンを発見した。場所は中央広場のベンチだ。どうぞ』
「こちらサムス。了解した。どうぞ」
『俺はもう帰る。きちんと話ができればまず失敗はない。不安になるな。行け』
「……了解。オーヴァ」
通信機を切って、サムスは何度か深呼吸した。……上手くいかなかったら、スネークをボコればすむことだ。
スネークの通信通り、ファルコンは中央広場のベンチに座っていた。背中がどことなく寂しそうだ。
もう一度だけ深呼吸して、サムスはそっと声をかけた。
「……ファルコン」
振り向いたファルコンは驚いた顔で固まった。
「サ」
「一言でも言ったら殴る」
「んな無……グァ」
あ、つい手が出てしまった。
あの中から選ばされたのは、胸元の大きく開いた白のカットソーとデニムのホットパンツ。スカートでないこと以外は、大体ファルコンの選んだものと似ている。ついでにシルバーのネックレスもつけられたし、髪もほどかれた。
恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「……ごめん」
「いや。結構似合ってるぞ、その服」
そういいながら立ち上がったファルコンの顔をまともに見れなくて、サムスは顔を背けた。
と、ふわりといい香りがした。
「……え?」
「ほら、これ」
ファルコンが差し出したのは、一輪の花。紫色の小さな花が密集している。
「ヘリオトロープ。『愛よ永遠なれ』って花言葉らしいぜ」
「うわ。似合わない」
「……ほっとけ」
今度はファルコンが目をそらす。少しくすぐったそうな顔で、それでもサムスはその花を受け取った。
「ありがと」
「ほら、行くぞ。……コーヒーでも飲みに」
そういって歩き出すファルコン。
まだ恥ずかしいのか、その背中に隠れるようにしながらサムスも続いた。





後書き



サムスがツンデレ気味なファルサムデート話でした。
普段あれだけボディライン強調する服着てるのに、何ゆえスカートが恥ずかしいのでしょうねぇ。

何故スネークが出てきたのかは永遠の謎。他にまともなアドバイザーがいないしなぁ。