やみなべっ!
この日の乱闘はファルコン、ルイージ、スネーク、トゥーンという少々変わった組み合わせだった。
「うっうっ、どうしていつも2位なんだろう……」
「いいじゃん、僕なんか真っ先に叩き落とされたんだよ」
「ルイージも、実力はトップクラスに匹敵するだろうになぁ」
「運が悪いんだよな、要するに」
わいわいと騒ぎながら自然に解散しようとした4人の傍を、大きな牛がのんびりと牽く荷車が通り過ぎた。4人も最初はスルーしていたのだが、トゥーンがふと気づいて声をかけた。
「……何やってるの? リンク」
そう。
普段の緑の服ではなく質素な服を着ていたため最初は気づけなかったが、牛を引いているのはまごうことなき時の勇者その人であった。
声をかけられたリンクは、とりあえず車を止めて話をすることにした。牛はのっそりと数歩進んでから止まり、4人をぼーっと眺め、それっきり興味を失ったのか道草を食べることにしたようだ。
「ほーう、ほーう。……やあ、どうしたの? 乱闘帰り?」
「うん、そうだけど……何でそんな格好で荷車なんか引いてるのさ」
と、荷台に積まれた木箱の陰からひょっこりとマルスが顔を出した。こちらは、鎧とマントがないこと以外は普段と同じ格好だ。
「皆さん、こんにちは」
「ああ、ドナドナか」
「僕が子牛に見えますか?」
「その荷物は何なんだい?」
ルイージが訊ねると、リンクはあっさりと答えた。
「これから鍋をしようと思って、その具材を買ってきたんだ。よかったらルイージ達も一緒にどう?」
「俺達を誘うってことは、カービィやヨッシーはいないってことか」
「うん。あの2人がいたら、これだけじゃ足りないだろ」
と笑顔で言ってはいるが、荷車には大きめの木箱が4つも積まれている。明らかに普通の鍋にしては異常な量なのだが、誰もそこには突っ込まなかった。
「お鍋か。いいよね、みんなで食べると楽しいし。何を入れるんだい?」
「色々買ったんだよ。なぁマルス」
「うん。牛肉に豚肉に鶏肉に鴨肉に猪……」
「肉ばっかり!?」
「アイクがいるんだよね」
全員が納得した。
「もちろんちゃんと他のもあるよ。白菜とか長ネギとかほうれん草とか」
「折角の鍋だから、まともな具材も食べたいですしね」
「まともな具材『も』?」
マルスの言葉尻に引っかかるものを感じ、ファルコンが訝しげな声をあげる。マルスが笑いながら補足した。
「ええ。今日はピーチ姫の主催で、闇鍋パーティーなんです。場所や機材は彼女が手配してくださったので、僕達はこうして具材を用意しているというわけなんですよ」
「もちろんちゃんと闇鍋用の具材も用意してあるよ。まだ秘密だけど」
それを聞いたルイージは、何故か気まずそうな表情になった。
「あー……その、ちょっと言いにくいんだけど……」
「何?」
「……ピーチ姫、今朝クッパにさらわれてたよ。今兄さんが助けに行ってる」
『……』
よくあることとはいえ、何とも絶妙なタイミングではある。
しかし、こうして具材まで買ってしまった以上、主催者がいなくとも鍋はやらなければならないだろう。マルスは気を取り直して口を開いた。
「それでも、折角ですので鍋はやろうかと。よければ皆さんも参加してくれませんか?」
「闇鍋だから、何かそれっぽいもの持ってきてね。食べても害がなくて、溶けたりなくなったりしないものなら何でもいいから」
4人は顔を見合わせた。……ピーチ姫ならともかく、マルスやリンク、アイクならそこまでひどいものを入れたりはしないだろう。
「うん、いいよー」
「で、場所は?」
「“城塁”だよ。ロボットが一室空けてくれるって」
“城塁”はこの世界の中心にある建物で、マスターハンドのいる空間に直通で行けたり、ステージへの転送システムや各種トレーニング施設があったり、様々なデータやアイテムを管理していたりする、この世界においては重要な施設である。が、その割には全く大事にされておらず、亜空軍の侵略の際に至ってはしっかりと忘れ去られていた。今では流石にそれはまずいだろうということで、ロボットに管理してもらっている。
「オッケー、分かった。じゃ、何か面白そうなものを見つけてくるね」
「うん、楽しみにしてるよ」
マルスと食材を乗せた荷車は、再びのんびりと動き出した。
めいめいに面白具材を持ってきた4人が“城塁”を訪れると、何故か割烹着を着たロボットが4人を出迎えた。
『ヨウコソ、皆サン。まるすカラ話ハ聞イテイマス、ドウゾコチラヘ』
「……その格好は一体……」
『倉庫ニアッタンデス。コレガ台所ニ立ツ者ノ戦闘服ダトイウ説明書キガアリマシタ』
くるりとその場で一回転するロボット。どうやら、気に入っているようである。
「……間違っちゃいないが、意味分かってないだろ」
『オオ、コノ服ニツイテゴ存知デスカ、すねーく』
「あー、割烹着についての講義はまたの機会にしてくれないか? まずは鍋だ」
ファルコンが割ってはいる。
『分カリマシタ。コチラデス』
ロボットに案内されたのは、それなりに大きな部屋だった。しっかり暗幕で仕切られ照明も控えられてはいるが、まだ準備段階らしく手元を見るには十分な明るさだ。
中央にはカービィが切り札として出す鍋よりも一回り大きな鍋が据えられており、アイクが時折おたまで浮かんでくる灰汁を取っていた。
「……よお。あんたらも参加か」
「うん。色々持ってきたんだ。期待しててよ」
「そうか。期待する」
鍋の中には、すでに鶏肉や骨のついた肉が沈んでいる。恐らく出汁を取るためだろう。
と、近くに置いてあったタイマーがピピピピと小さな電子音を鳴らした。アイクは大きなあみじゃくしを取り出し、沈んでいた肉をすくって近くの大皿に盛り始めた。アイクがタイマーを止める様子がないので、スネークが代わりにタイマーを止めた。
「つまみ食いはしてないだろうな?」
「いや、鶏肉と豚肉はきちんと火を通さないと腹を壊す。経験談だ」
「経験したんだ」
アイクらしいではあるが。
「ああ、来たんだ」
山盛りの野菜を抱えたリンクとマルスが、部屋の奥からやってきた。どうやら、2人で野菜と格闘していたらしい。マルスの運ぶ野菜はきちんと丁寧に切りそろえられているのに対し、リンクの運ぶ野菜は豪快にカットされている。料理人の性格が如実に出ている。
「じゃあ、はじめようか」
野菜を脇の机に置いて、マルスがコホンと咳払いをした。どうやら今回の仕切り役はマルスらしい。まあ、自分が食べることに夢中になりそうなアイクや気を使っているようでどこかが抜けているリンクよりは適任だろう。
「ではまず、一人ずつ持ち寄った具材を入れていきます。下ごしらえの必要な具材を持ってきた方はいらっしゃいますか?」
「あ、できれば下ごしらえしたいな」
「俺もだ」
ルイージとスネークが手を上げた。
「じゃあ、あっちにキッチンがあるので順番にどうぞ。僕達は先に入れておきますから」
リンクが暗幕の一枚をペラッとめくると、その向こう側に簡易キッチンがあるのが少しだけ見えた。律儀に暗幕で仕切ってあるらしい。
「ボクはそんなに時間かからないけど。スネークは?」
「少しかかるな。先にやっていいか?」
「うん。終わったら教えて」
ルイージが譲って、スネークが暗幕の向こうに行った。ほどなくして、ダンダンという音が響いた。肉切り包丁を思い切り振るっているのだろう。……一体何を切っているのか気になるところではある。
「えーと、具は一人ずつ順番に入れていきます。ロボット、お願いします」
『了解』
ロボットのLEDランプが点滅したと思うと、鍋を照らしていた電球が消えた。それだけでなく、部屋の照明の色が薄青くなり、何故か鍋の周囲だけが真っ暗になった。
『ドウデス、今回ノタメニ特別ニ開発シタ指向性らいとデス!』
「すっごーい!」
「本当に、鍋のところだけが真っ暗だ」
「よくこんなの作れたなぁ」
感心する剣士3人に、ロボットは胸を張るような仕草をしてみせた。
『我ガえいんしゃんと島ノてくのろじーニ勝ルモノナドアリマセンカラ』
「……技術の無駄遣いだな……」
いつの間にか戻ってきていたスネークがぼそっと呟いた。
まあ、空間をえぐって移動させるシステムを構築したり鳥人族のテクノロジーを解析しコピーできる技術力なのだ。こんなライトでもお遊び程度なのかもしれない。
一人ずつ順番に鍋に具を放り込むと、ロボットがそれぞれに器とあみじゃくしを配った。
『調味料、薬味ノりくえすとガアリマシタラドウゾ。胡麻、葱、大根オロシ、紅葉オロシ、胡麻だれ、ぽん酢、味噌、生卵、じゃむ等各種取リ揃エテイマス』
「何でジャムなんか用意したんだい? 普通はそんなもの入れないよ。あと、生卵を使うのはすき焼きだから、今回のような鍋にはあんまり使わないなぁ。シメに雑炊を作るときには、あるとすっごくいいんだけど」
『ソウナノデスカ。勉強ニナリマス。アリガトウゴザイマス』
「……あー、いいかな、ロボット」
マルスが再び咳払いをする。
「一人ずつ順番に、そのあみじゃくしで具をすくってください。すくった具は絶対に食べきることがルールです」
「待て、何故あみじゃくしなんだ。箸はないのか」
「それがですね」
スネークの指摘に、マルスは顔を曇らせた。
「最初は僕達も、普通にお箸を用意していたんです。ですがその……通常の長さの箸だと、底の具がすくえないんです」
何しろクッパやガノンがゆったりと風呂に入れそうなサイズの鍋である。
「そこでロボットに長い箸を用意してもらったんですが、そうするとすくった具を食べるどころか、手元の器にすら入れられないことが判明しまして……」
「……地獄と天国の食卓の話みたいだな」
「なので、すくうのはそのあみじゃくしでお願いします。食べるのは、箸でもフォークでも構いませんので」
ロボットが今度はカトラリーセットを配り始めた。何故かバターナイフやお好み焼き用のヘラも入っていたが、面倒なので誰も指摘しなかった。
鍋を食べる順番は主催のマルスから時計回りということに決まったので、マルスは暗い鍋にそっとあみじゃくしを沈めた。
「……これは……お菓子、でしょうか?」
マルスがすくった謎の具は、コロコロとしたサイコロ状の代物だった。多少角が丸くなって出汁が染み付いているようだが、可愛らしい色をしている。
「あ、それ僕が入れたの! トレーナーにもらったポロック!」
トゥーンが勢い良く手を上げた。
ちなみに、ポロックとはポケモンに与える補助食品である。毒ではないとはいえ、おおよそ人間に食べられる味のものではないのだが……。
「……僕はポケモンと同等なんでしょうか……」
ぶつぶつ文句を言いながらも、マルスはすくったポロックを口に入れる。途端に顔色を変えてごべっとポロックを吐き出した。本気でえずきだすマルスに、ロボットが慌ててバケツと水の入ったコップを差し出した。
「だ、大丈夫?」
「うわ、そんなにまずいのか?」
隣のリンクが、器に残っていたポロックに手を伸ばした。そのままひょいと口に放り込み――目と口を半開きにした状態で固まった。
「無理するな、吐け」
「というか、そもそもお前の番じゃないだろうに」
「いや……あんまりマルスがまずそうにしてるもんだから、どれだけまずいのかと……」
遠慮せずに吐き出したリンクは、それでも嫌そうな表情をしている。
「参考までに、どんな味だったの?」
「甘い。砂糖よりも甘い。これ食べたら死ぬんじゃないか、絶対」
「へぇ。マルスも?」
ようやく吐き気のおさまったマルスは、青い顔でふるふると首を横に振った。
「すさまじく苦かった……もう全身で受け付けないくらいの勢いで苦かったよ」
「うっわー……」
「でもそれだけじゃないんだよ」
死にそうな目でマルスは呟いた。
「まだ、後2個残ってる」
「……うわー」
見た目だけは可愛らしいポロックが、2つ並んで湯気を立てていた。
「よし、次は俺だな」
ポロックを無理やり飲み込んだせいでグロッキー状態のマルスに構わず、アイクは意気揚々と鍋にあみじゃくしを突っ込んだ。
あみじゃくしに乗って出てきたのは、グロテスクな顔をした謎の生物だった。
「ぎゃあああああ!」
うっかり見てしまったトゥーンとルイージが絶叫を上げて部屋の隅に逃げ、ファルコンもかなり引き気味になっている。アイクは一人無表情に呟いた。
「……何だ、これは」
「あ、それ俺が入れたの」
マルスを介抱していたリンクがひょいと手を上げた。
「何だ、これは」
「魚だよ。今朝釣った新鮮なやつ」
「初めて見た。何という魚だ?」
「さあ。俺もそんなに詳しいわけじゃないから」
『亜空軍事件デ発生シタ空間ノ歪ミニ影響サレタ突然変異体デショウ。元ハ鯉ダッタモノト思ワレマス』
見た目以外は無害ですよとロボットは太鼓判を押したが、トゥーンとルイージは怯えて戻ってこようとはしないし、ファルコンも嫌そうな顔をしている。
が、アイクは平然とナイフで皮を切り裂いて身をほぐしだした。
「……良く食べられるな……」
「魚なんだから食えるに決まってるだろう」
ファルコンのぼやきに、スネークが何故そんなことを言うのか分からないといった表情で応じた。そういえば、スネークもこのグロテスクな魚風の物体――絶対に鯉だなどと認めたくない――を見た時に平然としていた。
「食べ物に必要なのは見た目じゃない。食えるかどうかだ」
「ん、なかなかうまいぞ」
「……そうか、よかったな」
すくったのがアイクでよかったと、ファルコンは密かに思った。
アイクが食べ終わったことで、ようやく部屋の隅に逃げていた二人も戻ってきた。
「次はボクか……あんな具だけはすくいたくないなぁ」
恐る恐るルイージがあみじゃくしを入れる。すくいあげたのは、たくあんだった。
「何だ、たくあんか。誰が入れたんだ?」
ファルコンの問いに、気まずそうに手を上げたのはルイージだった。
「……自分の具を取っちゃった……」
「あー……まぁ、さっきの魚よりはマシだったと思って、な?」
たくあんは、おいしくはなかったものの普通に食べられた。
「次か。怖いな、結構」
そういいながらも、ファルコンは楽しそうに笑いながらあみじゃくしを入れた。
「何だ……花、か? 菊の一種のようだが」
すくいあげたのは、黄色い可愛らしい菊の花だった。
とりあえずまともそうな具材であったことに安心し、ファルコンは一口で花を食べた。
「……! ンググッ!?」
途端に口元を押さえるファルコン。顔色は、こんな時でも律儀にかぶっているメットのせいで分からないが、とにかくまずそうではある。
ロボットが持ってきた水を一気に飲み干し、ファルコンは息をついた。
「どんな味だった?」
「……とても苦かったよ。さっきのマルスの気持ちが分かったよ」
「あの、言いにくいのですが」
立ち直ったマルスが言いにくそうに手を上げた。
「それ、入れたの僕です」
「……」
「食べられる花があるということをピーチ姫にお聞きしまして、花なら意表もつけるし可愛らしいから大丈夫だろうと思ったのですが……そんなに苦かったんですか」
つまり、食べられるからという理由で味も分からず入れたらしい。グロテスクな鯉もどきやポケモン用のお菓子よりは遥かにまともなチョイスではあったが、ファルコンのあの発言の後で露見するというのも何となく微妙な感じがする。
実はリンクやアイクのボケがうつっているんじゃなかろうかと密かに思いながら、ファルコンは菊の花を嚥下した。花が小ぶりなのと、噛まなければ苦味があまり出てこないので、ポロックよりは(恐らく)楽だった。
「次は俺か」
スネークは何のためらいもなくあみじゃくしを鍋に入れた。
すくったのは、巨大なトマトだった。
「トマトか。無難だな」
「それは俺だな。マキシムトマトだ」
アイクが手を上げた。
確かに、よく見るとくしゃくしゃになった皮にMの字のような黒い模様が見て取れる。
「おい、無難すぎないか」
「マルスが『肉はいっぱいあるから、それ以外の材料を持ってきてくれ』というから、何を持っていけばいいのか分からなくなってメタナイトに相談した。そうしたら、これをくれた」
あの生真面目なメタナイトなら、たとえ闇鍋であってもネタに走った具材は持ってくるまい。だからマルス達と仲がいいにも関わらずメンバーに入れられなかったのだろうが。
「あー、ちなみにマルスに何も言われてなければ何を持ってくるつもりだったんだ?」
「肉」
ファルコンの質問に即答したアイクに、全員がこっそりため息をついた。
「……君、闇鍋の意味が分かってないでしょ」
「何を言う。鍋はそもそも食えるものをまとめてぶちこんで食べる料理だ、食える物を入れておけば何の問題もない」
「違うから、それすごく違うから!」
何とかアイクの考えを正そうとするマルスと首を傾げるアイクをよそに、スネークはマキシムトマトをさっさと食べつくした。レーションに慣れたスネークにとっては、とても美味しかった。
「次は僕かぁ。うー、変な具取らなきゃいいけど」
トゥーンが恐る恐る入れたあみじゃくしには、大きめの団子のようなものが乗っていた。
「何これ。お団子?」
「ああ、俺のだ」
ファルコンが手を上げた。
「ファルコン、料理できたんだ」
「料理っつっても、小麦粉を水で練って具を入れて丸めただけだぞ? 誰でも出来る」
「で、何が入ってるの?」
「それは食べてからのお楽しみだ」
楽しそうに笑うファルコンに、トゥーンに一抹の不安がよぎった。が、ファルコンは熱血な言動の割に紳士的な部分もけっこうあるため、そこまでひどい具は入れないはずだ。トゥーンは意を決して団子をかじった。
トゥーンの口とかじられた団子の間に、ねばーっと幾筋かの糸がのびた。
「うぇ〜……何コレ?」
「納豆だ。美味いだろう」
「ネバネバする……しかもくさーい」
嫌そうに糸を振り払うトゥーン。
「何だ、いい具じゃないか。納豆は栄養価が高い、素晴らしい日本食だぞ」
「でもこれ嫌いな人けっこういるんだよなぁ。だから布教も兼ねて入れたんだよ」
のほほんと話すファルコンとスネークを横目で睨みながら、何とかトゥーンは納豆団子を食べ終えた。
ロボットが持ってきてくれたおしぼりで顔のネバネバをぬぐうトゥーンをルイージがフォローしようとする。
「でも、確かにネバネバは苦手な人もいるから……乾燥タイプも十分美味しいから、まずはそういったとっつきやすいところから始めるべきじゃないかな」
「あのネバネバが美味いんだぞ」
「何でもいいから早く回してくれ。腹が減った」
バッサリと納豆話を一刀両断したアイクに、トゥーンはこっそりと感謝した。
「じゃ、次は俺っと」
リンクがすくいあげたのは、茶色く平べったい物体だった。
「何だこれ? 肉じゃないみたいだし……」
リンクは訝しげに首をかしげたが、そんなものは食べてみれば分かることだ。どのみち食べなければならないので、リンクはその物体を一息に口に入れた。
「……うえっ、何これまずっ!」
「ああ、そいつは俺が入れたものだ」
顔をしかめるリンクを見ながら、どこか楽しそうにスネークが手を上げた。
「何入れたの?」
「オーソドックスに革靴だ。食べやすいように一口サイズに切っておいたぞ」
「いやそれ食べられないから!」
当人と、口の中の革靴と格闘しているリンク以外の全員が突っ込む。
「? 食えるぞ?」
スネークは不思議そうな表情でそう言うと、リンクの皿から革靴のかけらを取って口に放り込んだ。そのままモグモグと咀嚼し、何事もなかったかのように飲み込んだ。
「戦場じゃ贅沢は言っていられないからな。とにかく消化できるものは食ったな」
「闇鍋でそこまでサバイバルしなくてもいいじゃん!」
「サバイバル術は、身に着けておくといざという時に役に立つぞ」
「普通サバイバルで革靴とか食べないと思うぞ」
色々と間違っている気はするが、スネークが実演した以上革靴はルールにのっとった具である。つまり、食べなければならないのだ。
次々に飛ぶ突っ込みをよそに、リンクはひたすら頑張ってなめし皮を噛んでいた。
これ以降はあまりひどい具はなく――ポロックや革靴、たくあんの余りがたまに出てきたくらいだった――もう照明を戻してもいいだろうというマルスの判断で、最後は普通の鍋パーティーとなった。
元々まっとうな具の方が多かったので、当然の流れかもしれない。
しめの雑炊までしっかりと全員で平らげた頃にはすっかり夜もふけていたため、ロボットに客室を借りて一泊することになった。
全ての片付けを終えて割烹着を脱いだロボットに、マルスが礼を言いにやってきた。
「ありがとう、ロボット。何から何まで、本当に助かったよ」
『イエ、私モ皆サンガ楽シンデイル様子ヲ見テイテ楽シカッタデス』
ロボットはカメラアイのファインダーを半分閉じ、首を少し傾ける。これが、おおよそ感情を表現するためのものをほとんど持たない彼の笑顔である。
『トコロデ、ぴーち姫カラ連絡ガアリマシタ』
「流石はマリオさん、仕事が早い」
『明日ハまりおトばかんすニ行クノ、ダソウデス。ソシテ、モウ一度闇鍋ぱーてぃーヲヤリタイトノコトデス』
ふむ、とマルスは少し考えた。確かに楽しかったが、それなりにひどい目にもあった。もう一度やるべきだろうか。
……。
…………。
よく考えたら、闇鍋があろうとなかろうと、この世界での暮らしはそういうものだった。
「せっかくだし、もっと参加者を増やさないかい? 寒い時期だし、ピーチ姫も皆でわいわいと楽しむのがお好きでしょう」
『ソレハイイあいでぃあデス。早速ソノヨウニ返事ヲ出シマショウ』
「ついでに、通信機を持っている人達への連絡もお願いしていいかい? そうじゃない人には、僕達が接触するから」
『オ任セ下サイ。ぱーてぃー会場ノせってぃんぐモ完璧ニシテミセマスヨ』
「素晴らしい。……そうだ、ロボットも給仕だけではなく闇鍋に参加してみてはどうかな。味もそれなりに分かるんだろう?」
『構ワナイノデスカ? ナラ、是非』
生き物だったなら、彼の目はさぞキラキラと輝いていたことだろう。マルスはにっこりと笑った。
「じゃあ、僕らも準備しないと。今度も、今日のように楽しいパーティーにしたいしね」
後書き
以上、「ウホッ! 男だらけの闇鍋大会」でした。(直前まで本気でこのタイトルでした)
人によっては非常に割をくっていますが、まあ仕方ないです。
……いや、本当にリンクは好きなんですよ? 闇鍋というネタ上、王道ネタとして革靴を食べてもらったまでで。
いや本当です、だからごめんなさいマルマインは勘弁してください。本当もう土下座とかしますんで。
……ポフィン? ダイパプラ持ってない私にそんなものは関係ありませんなぁ。
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