彼と彼女の恋愛事情


愛のカタチ」の続編です。

理由はよく分からないが、とりあえずやるべきことは一つだ。
何故かいきなり逃げ出したゼルダを、訳が分からないながらもリンクは追いかけた。
呼び止めるのに、特に失礼にあたりそうなことをした覚えもない。かろうじて思い当たるのはこの間戦った時にトライフォースラッシュを当てたことくらいだが……その程度で腹を立てるような性格じゃないし、乱闘の勝敗に禍根を残すのはルール違反だ。
首をかしげながら、角を曲がったゼルダの後ろ姿を追って角を曲がる。

ドンッ!

「きゃっ!」
「うわっ!」
と、腰のあたりに何かがぶつかり、リンクはしりもちをついてしまった。……どうやら、キノピオの一人のようだ。
「いったたた……」
「ご、ごめんなさい」
謝罪もそこそこに、慌てて立ち上がるリンク。走り出そうとしたその服の裾を、キノピオの手がむんずとつかんだ。
「待ちなさい、あなたさっきの女の子を追っかけてるのね!」
「そうだよ、だから」
「何考えてるのー!」
この城の女官らしいキノピオは、問答無用でリンクを一喝した。
「な、何って」
「女の子泣かせて追っかけまわして、あなたそれでも男なの!?」
「いや、だからこれは」
「男なら言い訳するんじゃないっ! いいっ、大体ね……」
勇者とはいえ若輩者のリンクがおばさんの説教攻撃にかなうはずもなく。
あわれリンクは、この後数時間に渡って正座させられて彼女の説教と関係ない愚痴の嵐にさらされることとなった。



一方のゼルダは、ピーチ城から少し離れた丘の上で膝を抱えていた。
リンクが追いかけてくるかとも思ったが、城を出たあたりで一度振り返ったところ姿を見ることはできなかった。
キノピオの背は明らかにリンクより低いので、もし追いかけてきていたなら姿を見ることはできるはずなのに。振り切ってしまった……と考えるには二人の足の速さには差がなく、ジグザグに走ったわけでもない。
「……はぁ……」
自分から逃げておきながら、追いかけられなかったことに落ち込むというのも変な話ではあるが、自分でも逃げた理由や落ち込む理由がよく分からないのだから仕方がない。落ち着いて考えれば、自分がいかに理不尽な行動をしているのかがよく分かる。
一度戻ろうかという考えもチラリと頭に浮かんだが、顔を見た瞬間に逃げ出してしまった手前、とても顔を出しづらい。かといって、このまま一人でここで膝を抱えているのも嫌だ。
「はぁ……駄目だな私……」
丘の上を悠然と飛んでいく赤竜をぼんやりと見上げながら、ゼルダはもう一度ため息をついた。



ようやくキノピオのおばさんの説教が終わった時には、既にゼルダの姿は見当たらなくなっていた。
「……ボルテッカーよりキツかったな、今の……」
(主に精神面で)フラフラになりながらも、ゼルダを探すべくリンクは立ち上がる。そこに、トレーナーが小走りにやってきた。
「ちょっとリンク、何でこんなところにいるのさ」
「いや、ちょっとトラブルがあって」
「ゼルダ姫、ここからちょっと行った先にある丘で座ってるよ。今ならまだ追いかけられるかも」
リンクが意外そうな顔になる。まさか、トレーナーがゼルダの居場所を知っているとは。
「何でそのことを……?」
「ピーチ姫が『きっとお城からちょっと離れたところに逃げてると思うから、リンクに教えてあげなさい』って。で、リザードンにおおまかな場所を見てもらってた」
さすがはピーチ姫。こういった局面でゼルダのやらかしそうなパターンは全て把握しているらしい。
トレーナーの腰についているボールの中で、リザードンも小さくうなずいた。目のいいリザードンには、ゼルダの落ち込んだ表情もよく見えたのだ。……そこまでは、流石に伝え切れなかったが。
「とにかく、ありがとう。行ってみるよ」
リンクはトレーナーに短く礼を言って、再び走り出した。



……いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ゼルダがはっと顔を上げると、西日が遠くに連なる山々の向こうに沈み、気の早い星達がいくつか空にきらめいていた。
「あ、起きた?」
これまたいつの間にか隣に座っていたリンクがこちらを覗き込んだ。ふと自分の肩を見ると毛布がかけられている。恐らく、リンクがかけてくれたのだろう。
「……いつからここに?」
「まだ夕日が半分出てた頃」
リンクも、そんなに早くここに来たというわけではなさそうだ。
実直な割には道草を食うのが大好きな人だから、きっと何か興味を引かれるものを見つけていたのだろう。そう思うと、なぜだかちょっと腹が立った。
「あのさ、ゼルダ」
と、リンクが口を開いた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
沈黙。
「……えーと、リンク。何?」
「いや、その……」
しびれを切らしたゼルダが問いかけると、リンクは非常に気まずそうに頭をかいて、小さく答えた。
「……いや、特に用事はないんだけど」
「……はい?」
思わずゼルダは硬直する。
「何ていうか……久しぶりに会ったから、声かけただけ」
フラフラと当てもなく一人旅をしているリンクは、あまりゼルダと会う機会がない。特に話したいような出来事もなかったし、ピーチのように他愛無いおしゃべりを楽しめるわけでもない。
「……」
たかが挨拶程度だったなんて。今までの騒ぎやら悩みやらは、一体何だったのだろう。
何だか急に馬鹿馬鹿しくなって、ゼルダは笑い出した。いきなり笑い出したゼルダに、リンクはちょっと驚いたような表情になったものの何も言わずに横に座っていた。
「っははは……何だったんでしょうね私。馬鹿みたい」
「それに関してはお互い様じゃないのか」
「そうね。馬鹿馬鹿しすぎて、もう何もかもどうでもよくなってきちゃった」
足を投げ出して、赤から濃紺に変わっていく空を見上げる。用事がないといったリンクも付き合ってくれるのか、隣で楽な姿勢になっている。
ただ一緒に座るだけで特に言葉を交わしたりするわけでもないけれど、何故だか心が満たされていく。
何となくリンクの肩にもたれかかってみると、リンクはそっと体をずらしてもたれやすいようにしてくれた。
「ねえ、リンク」
「何?」
「……呼んでみただけ」
すっかり夜になったけれど、リンクの隣を動く気にはなれなかった。



「……とまあこんな感じで、好きな人が傍にいるってだけで幸せになれちゃったりもするの。うーん、初々しくて可愛いわ二人とも」
「ふーん」
「いいなぁ、そういうの」
「質問」
「はい、トレーナー」
「ピーチ姫はどこからそのサイファーを持ってきたんですか」
「乙女には秘密がいっぱいあるの♪ 詮索なんてしちゃダメよ」





後書き



というわけで、「愛のカタチ」の続編でした。
いやぁ、最近何だかリンゼルブームです。おかげで書いてる途中のマルリン続編の進まないこと進まないこと。
リンゼルは初々しい感じのが好きですね。裏モノ書いてたじゃねーかというツッコミはしないでくれると嬉しいな。